なんか、気まずい感じになってしまい、すぐにでも退散すべきかも……。


「あの、ごめんなさい。私はこれで失礼しますので、ごゆっくり……」

「あら、柚乃ちゃん、帰っちゃうの?今、紅茶入れたから飲んでって?」

「いえ、でも……もう遅いので……」


おばさんはそう言うけれど、そこの彼の視線が怖いんですけど……。

私は彼に頭を下げて立ち去ろうとした。


「柚乃ちゃん?……もしかして、七海と一緒にドリプリのライブに来てくれた……柚乃ちゃん?」

「……えっ?」


そんな話を、七海から聞いてたの?

……この人、もしかして……七海の幼馴染?


「初めまして。俺、七海の幼馴染で、柚乃ちゃんの話はよく聞いていました」


さっきまであった私への不信なオーラが嘘のように消え、彼は帽子を取りながら頭を下げた。

……あれ?

この人、どこかで見た事あるような……?


「七海のご両親からも話は聞いてました。青柳燈真(あおやぎとうま)と言います」


頭を上げながら、名乗った彼を見て私は心臓が止まるかと思うくらい驚いてしまった。


「Dream princeの……青柳燈真さん?」

「そうです……って、七海から聞いてませんでした?」

「き、聞いてないです!幼馴染がいるっていう話はよくしていましたけど、一度も名前を出した事はなかったので、まさかDream princeの青柳さんが幼馴染だったなんて……今、びっくりしてます……」


七海の幼馴染がドリプリのメンバーの青柳燈真だなんて初耳だ。

知っていたら、今こんなに驚く事はなかっただろうし……。


「そうですか。七海、話してなかったのか……」


ポツリと呟いて、青柳さんは花束をおばさんに手渡すと仏壇の前に座った。

そして目を閉じて手を合わせる。

その横顔はさすがアイドル……という事なのか、それとも元々の彼自身のものなのか……切なくて儚い中に美しさまであって、私の心を揺り動かす。

この人を恋愛対象として一度も見た事がない七海の心臓は強いなと、驚いてしまうほどだった。