そう思いながら時計に目をやると、すでに21時を過ぎている。


「お客様が来たみたいなので、私はそろそろ……」

「そんな、気を遣わないでゆっくりしていって?この時間にうちにお客様なんて……」


私がソファから立ち上がると、おばさんが慌てて止める。


「でももう21時過ぎてますし……」

「明日は早いの?」

「いえ、明日は出社遅いですけど……」

「じゃあゆっくりしていって?その方が七海も喜ぶと思うし、ね?」


そう言われてしまうと、帰りづらくなる。

とはいえ正直、おじさんとおばさんの事も心配だった。


「紅茶、入れなおすから座って待ってて?」

「あ、いえ、おかまいなく……」


おばさんがテーブルのティーカップを持って、キッチンの方へ行く。

その姿を見送った後、私は再びソファに座りなおした。

それとほぼ同時に、玄関に出ていたおじさんがリビングに戻ってきた。


「母さん。燈真君が来たよ」

「あら、燈真君が?」


燈真君?

誰だろう?


「お邪魔します。こんな時間にすみません」

「忙しいのにわざわざ来てくれてありがとう。さ、七海に会ってあげて?」


帽子を目深にかぶった男の人が花束を抱えて、おじさんの後ろから現れる。

おばさんがキッチンから戻ってきて、仏壇の前に彼を促した。

その彼が私に気付いて、歩みを止める。


「……七海のお知り合いですか?」


声をかけられて、私は慌ててソファから立ち上がる。

七海の両親しかいないと思って彼は来たに違いない。

声のトーンが私に対して、不快感を示すような物だったから私はここにいるべきではないと悟った。


「あ、はい。七海の大学からの親友で、黒澤と申します」

「親友……?」

「はい。仲良くさせてもらってました……」


親友という言葉に、彼はなぜか、あまりいい反応をしなかった。

もしかして、親友と思っていたのは私だけだったのだろうか。

友人って言った方が良かったのかな。