結局、そこなんだ。

その男が見つかれば、少しは七海に何があったのかわかる気がするのに。

ずっと裏切られていた……って、七海は最期の電話でそう言っていた。

裏切ったのは、その男に違いない。

あんなに楽しそうに未来予想図を描いていた彼女を裏切っていたのなら、絶対に許せない。



3月22日。

手掛かりが何も掴めないまま、初めての月命日を迎えてしまった。

七海の遺影を前にすると、未だにいなくなった事が信じられないでいる。

同時に沸き上がってきた姿の見えない元婚約者への憎しみ。

複雑な想いを胸に抱えながら、私は仏壇に手を合わせた。

仕事終わりに寄った七海の実家。

四十九日を迎えていないので、七海はまだ家にいる。

どんなに忙しくても、月命日は必ず七海に会いに来ようって決めた。


「柚乃ちゃん、ありがとうね」

「いえ、私の方こそ、遅い時間に申し訳ありません」

「こっちの事は気にしなくていいから。……七海が亡くなった事を知っている友だちは柚乃ちゃんだけだから、来てくれるのは本当に私たちも嬉しいんだ」

「柚乃ちゃんもお仕事忙しいんじゃない?七海と同じ職種でしょう?」

「あ、はい。……七海みたいに臨機応変に動けなくて、未だにパニックになってて周りに助けてもらってます」


苦笑しながら言うと、おじさんもおばさんもクスッと笑う。

七海は上司である田辺さんから、お褒めの言葉をもらっていたのにね。

仕事だけじゃなくて、田辺さんの奥さんへのプレゼントのアドバイスまでしていたとかって話してたもんね。

私なんて、他の人のプライベートの事まで気が回らないのに。


「柚乃ちゃんは、すごい努力家だって七海はいつも言ってたよ。だから、自分も頑張らなきゃっていつも思ってるって話してた」

「そんな……七海が頑張っているから、自分も頑張ろうって思ってただけです」


七海、そんな事を思ってくれてたんだ。

思いがけない言葉に涙ぐんでしまう。

その時、ピンポーンとインターホンが鳴る。

おじさんが立ち上がって、対応に出た。


「はい?……あ、うん。今、大丈夫」


そう言って、おじさんはリビングを出て行く。

誰かお客さんかな?