七海が住んでいた家をおじさんと片づけた際、自殺の動機に繋がるような物は何も見つからなかった。

もちろん、この部屋に彼氏が来ていたような痕跡も無い。

残念ながら、恋人との写真さえも一枚もなく、水没したスマホの中に入っていたのか、それともそもそも『彼氏』という存在が最初からいなかったのかはわからない。

彼氏がいるという見栄を張ったのかって思ったけれど、私にそんな事をする意味は全くない。

彼の事を話す七海は本当に幸せそうだったから、いた事は事実だと思う。

しかも、プロポーズまでされたというのだから。

けれど、どこを探しても彼の存在を示す物は一切なく、手掛かりは何ひとつない。


おじさんは忙しい合間を縫って、七海がひとり暮らしをしていた部屋を引き払い、荷物を実家に引き上げてきた。

更に七海の勤めていた出版社に出向いて、田辺さんと一緒に私物を整理して持ち帰ってきた。

職場に置いていた私物は思っていた以上に少なかった。

私と違って、七海はあまり職場に私物を持ち込んでいなかったようだ。

おじさんやおばさんと一緒に会社から持ち帰った段ボール箱から物を取り出して選別する。

取材用のリングノートが出てきて、めくってみた。

この前カフェ巡りをした時に、雑談をしながらメモをした事が綴られている。

あんなに楽しく色々な話をして、一緒に企画を練っていたのにね……。


「仕事関係と思われる書類は田辺さんに渡してきたから、あまり荷物は無かったよ」

「そうですか……。七海、ひとり暮らしの部屋もそうでしたけど、綺麗好きで物をあまり置かないタイプなんですね」

「中学生までは、片付けなさいっていうのが私の口癖だったんだけどね。高校生になってから整理整頓が七海の口癖になっちゃって、しょっちゅう自分の部屋の掃除をしていたわね」


おばさんが懐かしそうに目を細めて話す。

綺麗好きの七海が、片付けなさいっておばさんに怒られてたんだ……。

全然想像つかない。

少しでも汚れを見つければ、いつだって掃除していた七海の姿しか思い浮かばないから。

何度か実家に泊まりに来た時も、七海の部屋は本当に綺麗だった。

私の実家の部屋とは大違い……。

そんな事を思いながら、私はリングノートを閉じた。


「……それにしても、七海は一体誰とお付き合いしていたのかしら。プロポーズまでしたのだから、七海がこんな事になっているのは知っているはずよね……?」

「本当にそんな男がいたのか?七海の部屋には一切、男が入った形跡はなかったぞ」


おばさんもおじさんも困ったような悲しいような、複雑な表情を浮かべている。