それから数日経った晴天の日の朝、グライダーの練習に行っていたメメルが血相を変えて孤児院に戻ってきた。食堂に駆け込み、アージェを見つけて開口一番。

「ほっ……本戦が中止になっちゃったんだってぇ~!!」
「えっ!? なんでだよ!」

 食事中だったアージェは驚いて飛び上がり、すぐさまメメルとともに『風の港』へと向かった。
 見ると一枚の看板が堂々と設置されている。

『スカイ・グライダーの本戦は中止といたします。後日、異なる会場で開催いたします』

「ほらっ、ほらっ! なによこれ!」

 メメルは涙目で看板を指さしている。

「まじかよ……政府の運営のやつら、何考えていやがるんだ!」

 孤児たちは皆、生きていくだけでせいいっぱいなのだ。他島へ遠征するための旅費を捻出できるわけがない。つまり、メメルに残されたのは――棄権する、という選択肢だけだった。メメルはその場で崩れ落ちた。メメルの悲痛な表情をアージェが目にしたのは、出会った日以来のことだ。

 港では旅客機の飛行艇に乗り込む人々の姿があった。観戦を諦めて帰る人たちだろう、と最初は思った。しかしその中には知る顔が多々見受けられる。それも政府から派遣された役員や富裕層など、身分の高い者たちばかり。

 アージェは日銭を稼ぐために配達のアルバイトをしていたので、島に住む人々の顔や職業に詳しいのは当然のことだ。

 しかし本戦の会場が決まっていないというのに、なぜこのタイミングで島を出るのか。それに旅行にしてはたいそうな荷物を携えている。まるで引越しをするかのように。

 何が起きているのか理解できないでいるアージェは、ただ落胆するメメルを慰めることしか出来なかった。