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男たちが詮索する間、メメルはアージェと天井裏に隠れていた。ミレニアと男たちの会話に聞き耳を立てていたのが幸いだった。ミレニアはアージェに聞こえるよう、応接室の小窓を開けておいたのだ。
メメルは薄闇の中、不思議そうにアージェの表情を目で探る。
「あの人たち、あたしのことを探してるんでしょ。なんでアージェまで隠れるのよ」
「しょうがねぇだろ。メメルは戦いの匂いに弱いからな。あいつらの歩き方、間違いなく訓練された軍人だ。――ほら、見てみろよ」
「あっ……!」
メメルは自身の腕に視線を向ける。素肌は異変をきたしていた。いつのまにか全身の皮膚が淡青色に輝き始めていたのだ。
「あの飛行艇は戦争用に開発されたものだからな」
メメルの体内には大量の魔力が蓄えられている。心臓の病で失う命を取り留めるため、スパイク博士によって行われた処置だ。だが、魔力は戦いの匂いに反応し、メメルの体内で暴走を始めてしまう。飛行艇と男たちが発する微弱な死臭のせいで暴走が始まったのだ。
アージェはすかさず無効化の魔法を発動させた。
――『魔禁障・静穏な捕縛!』
全身に魔力の網をかけ暴走を食い止める。魔法の色彩は吸収され、メメルはもとの肌の色を取り戻す。乱れかけた呼吸もすぐに落ち着いた。
しばらくして、飛行艇が飛び去ってゆく音が聞こえた。
「メメル、もう大丈夫だ」
「よかったぁ~」
アージェはメメルの手を優しく握る。もう、魔力が漏出する気配はない。
「しかしここ、暑苦しいな。出ようぜ」
「……やだ。もうちょっとだけ、このままでいたい」
メメルは繋いだ手を握り返してアージェを引き止める。
「なっ、なんでだよ」
「だってさ、みんながいると甘えられないもん。――頑張った今日くらい、ご褒美くれたっていいでしょ?」
メメルはその場でアージェの胸にもたれかかる。顔をうずめてスンスンと匂いを嗅いだ。アージェの心臓は不本意にも早鐘を打ってしまう。
少し前まで子供だと思っていたのに、いつのまにかメメルは女らしい体つきになっていた。背中からお尻にかけて描かれる緩やかな曲線、それにしだいに増してゆく胸のふくらみ。甘い素肌の香りと吐息の熱。アージェの蒼い心は少女の未熟な色気に容赦なくかき乱される。
「……わかったよ。もうちょっとだけな」
「うんっ!」
アージェは平静を装って返事をしたけれど、顔はひどく熱を持っていた。
「アージェ、なんかドキドキしてるね。もしかして怖かった?」
「ああ……政府の人間が来るなんて、ただごとじゃないと思ったからさ。ここで戦争が起きたりしないといいけど」
アージェは皆が抱いているであろう不安を口にして本心をごまかした。
「そうだね、でもだいじょうぶ。どんなことが起きたって、あたしがみんなを守ってあげるから……」
そうつぶやきながら、メメルはすぅ、と眠りについた。嬉しそうな、安堵したような表情で。
アージェはもう少しだけこのままでいようと思い、息をひそめて時が過ぎるのを待った。
虫の鳴き声と少女の寝息が、夜のしじまに響く音楽となって、アージェの鼓膜をゆったりと揺らしていた。
男たちが詮索する間、メメルはアージェと天井裏に隠れていた。ミレニアと男たちの会話に聞き耳を立てていたのが幸いだった。ミレニアはアージェに聞こえるよう、応接室の小窓を開けておいたのだ。
メメルは薄闇の中、不思議そうにアージェの表情を目で探る。
「あの人たち、あたしのことを探してるんでしょ。なんでアージェまで隠れるのよ」
「しょうがねぇだろ。メメルは戦いの匂いに弱いからな。あいつらの歩き方、間違いなく訓練された軍人だ。――ほら、見てみろよ」
「あっ……!」
メメルは自身の腕に視線を向ける。素肌は異変をきたしていた。いつのまにか全身の皮膚が淡青色に輝き始めていたのだ。
「あの飛行艇は戦争用に開発されたものだからな」
メメルの体内には大量の魔力が蓄えられている。心臓の病で失う命を取り留めるため、スパイク博士によって行われた処置だ。だが、魔力は戦いの匂いに反応し、メメルの体内で暴走を始めてしまう。飛行艇と男たちが発する微弱な死臭のせいで暴走が始まったのだ。
アージェはすかさず無効化の魔法を発動させた。
――『魔禁障・静穏な捕縛!』
全身に魔力の網をかけ暴走を食い止める。魔法の色彩は吸収され、メメルはもとの肌の色を取り戻す。乱れかけた呼吸もすぐに落ち着いた。
しばらくして、飛行艇が飛び去ってゆく音が聞こえた。
「メメル、もう大丈夫だ」
「よかったぁ~」
アージェはメメルの手を優しく握る。もう、魔力が漏出する気配はない。
「しかしここ、暑苦しいな。出ようぜ」
「……やだ。もうちょっとだけ、このままでいたい」
メメルは繋いだ手を握り返してアージェを引き止める。
「なっ、なんでだよ」
「だってさ、みんながいると甘えられないもん。――頑張った今日くらい、ご褒美くれたっていいでしょ?」
メメルはその場でアージェの胸にもたれかかる。顔をうずめてスンスンと匂いを嗅いだ。アージェの心臓は不本意にも早鐘を打ってしまう。
少し前まで子供だと思っていたのに、いつのまにかメメルは女らしい体つきになっていた。背中からお尻にかけて描かれる緩やかな曲線、それにしだいに増してゆく胸のふくらみ。甘い素肌の香りと吐息の熱。アージェの蒼い心は少女の未熟な色気に容赦なくかき乱される。
「……わかったよ。もうちょっとだけな」
「うんっ!」
アージェは平静を装って返事をしたけれど、顔はひどく熱を持っていた。
「アージェ、なんかドキドキしてるね。もしかして怖かった?」
「ああ……政府の人間が来るなんて、ただごとじゃないと思ったからさ。ここで戦争が起きたりしないといいけど」
アージェは皆が抱いているであろう不安を口にして本心をごまかした。
「そうだね、でもだいじょうぶ。どんなことが起きたって、あたしがみんなを守ってあげるから……」
そうつぶやきながら、メメルはすぅ、と眠りについた。嬉しそうな、安堵したような表情で。
アージェはもう少しだけこのままでいようと思い、息をひそめて時が過ぎるのを待った。
虫の鳴き声と少女の寝息が、夜のしじまに響く音楽となって、アージェの鼓膜をゆったりと揺らしていた。