中央都市アストラルは堅固な外壁で囲まれていた。各所に立つ塔が島の周囲を見張り、厳重な警備を施している。浮遊島の政治や経済、そして軍事の核となるこの島は、外敵の攻撃に屈することがあってはならないのだ。

 青空に輝く日差しを受けて、外壁に備えられた巨大な門がゆっくりと開かれた。姿を見せた港にはさまざまな島からの飛行艇が順に着陸する。

 セリアは黒髪を風になびかせながら港に降り立った。入島審査は問題なく切り抜けた。

「だいぶ様変わりしたなぁ。まるで要塞みたいね」
「セリアはここに来たことがあるのか。僕は観光で何度かあるけどさ」

 セリアとブリリアンはあたりを見回しながら話をする。

「もともと住んでいたんだ。両親が生きている頃にね」
「うっ……悪いことを聞いちゃったな」
「ううん、気にしないでよ」
「セリアって、今まですごい苦労をしていたんだよな。それに戦いの現場を見ちまうと、のんきに暮らしていた自分が浅はかに思えるよ」

 戦いの恐怖を知ったせいか、学院にいた時よりもやけに謙虚だ。

「だいじょうぶ、そのぶんを今回返してもらうから」
「それって……僕にも戦えってこと?」
「参戦した以上は粉骨砕身の覚悟で頑張ってもらうから。いいね?」
「まじかよ、偵察だけじゃなかったのか……」

 セリアとブリリアンは石畳の街路に足を踏み入れる。活気ある街並みがふたりの目に映る。

 店先にはさまざまな品物が陳列されていた。色彩豊かな布地や珍しい武器、そして各島名産の食材。この島で手に入らないものはなさそうだ。

 さらに路上ではさまざまな衣装が販売されていた。魔獣や幽霊だけでなく、果物や野菜などの衣装があり、しかもそれらが飛ぶように売れていく。宣伝の貼り紙が目に入った。

『明日はいよいよシルベスター祭!』

「なんだろう、この祭りは」
「満月の日に行われる、島をあげてのパーティーよ」
「ふーん、いったい何が行われるんだ?」
「各所に設けられた闘技場で腕自慢同士が対決するのよ。挑戦する時は『マッスル・オア・マジック』って言ってね」
「ってことは、体術でも魔法でも可、ってことか?」
「そう、異種格闘技戦よ。気を失うか降参したら負け。それで敗者は勝者の言うことを必ずひとつ聞かなければいけないの。それも無礼講だから」
「どんな要求をしてもいいってことなのか」
「ええ、命にかかわらなければね。――あっ、そうだ!」

 セリアはぴんと人差し指を立てて空を仰ぐ。

「アージェたちをこの島の中に入れてもらえる方法があるじゃない!」
「はぁ? どうやって?」
「わたしたちもシルベスター祭に参加するのよ!」
「まさか……」

 ブリリアンは想像がついたようで、こめかみから冷たい汗を滴らせる。かたやセリアの深く黒い瞳は果敢な決意を宿していた。