ドンペルはアージェと合流するまでの経緯を滔々と語ってくれた。

 魔法学院の一行はアージェの安否を確かめるために大陸(コンタナ)に乗り込み、最初にピピンの住む村を目指した。ラドラが面識のある長老の家を訪れると、長老は救世主であるラドラとの再会を歓び、一行を好意的に迎えてくれた。

 そこでピピンが異国の青年とともに秘石を目指して森に入ったことを知り得た。その青年がアージェかもしれないと察して後を追い、森の中で浮遊要塞を発見した。そこで夢幻の魔法を唱えて飛行艇を隠して尾行していたところ、グスタフが秘石を狙っていることに気づいたとのこと。

 村に戻ると、大陸の民は秘石が奪われたことをおのずと察していた。大気や地表、それに植物や昆虫に宿る魔力が減衰していたのだ。皆の魔法の力もひどく衰えていた。

 ピピンが村に戻り長老に経緯を伝えると、大陸の民の怒りは最初、アージェたち人間とピピンに向けられた。アージェが人間だと知ると殺伐とした雰囲気となったが、いきり立つ大陸の民を諫めたのは意外なことにサシャ自身だった。

「たとえ貴様が人間だと知っても、悪意のない来訪者を対話もなしに殺したりはしなかった。我々は貴様に魔獣のような存在だと思われていたことが悔しいのだ」

 強い意志を宿すサシャのまなざしを受け、アージェは平身低頭で謝罪する。

「大陸の民のことを誤解していて、申しわけないとしか言えません」
「だがピピンを護ってくれたことには心から感謝する。だから恨み言はここまでだ」

 サシャは潔く論争に終止符を打ち、ピピンを公然の場で擁護した。「ピピンは最善の努力をしたのだから、結果はどうあれ罪はない」と。

 最後に皆に向かって大声で告げる。

「今日、この大陸を訪れた彼らは、我が同胞が信じた者とその仲間だ。種族などは関係ない。大陸を侵食する者から、我々の神、世界を統べる秘石(メルス・ラトイーテ)様を取り戻す英雄となるはずだ!」

 サシャのひとことで大陸の民は素直に矛を納めた。指導者としての資質だなとアージェは素直に感心した。

 グスタフの身柄はドンペルが長老に引き渡した。「こいつの始末は大陸の民に任せる」と言ったから、後ほどじっくりと尋問(・・)が行われるはずだ。

 その夜、秘石に対する追悼の儀が行われた。大陸の民は皆、踊り狂い嗚咽をあげ、魔法を讃える歌を合唱する。光を失った夜の森に、大陸の民の歌がいつまでも響き渡る。

 アージェが空を見上げると、さっきまで空を覆っていた雲は風に蹴散らされ、たくさんの星が煌めいていた。その星に紛れて、ひときわ眩しく輝く島が地平線のそばに見える。

 かすかに魔力を感じるそれは、これから目指す中央都市、『帝都アストラル』。アージェはその光を瞳に映して強い決意をみなぎらせた。