魔法の銃弾が降り注いだ瞬間――上空から金属の塊のようなものが落下し、少女の眼前で地響きを立てた。それは漆黒の鎧だった。鎧はすかさず立ち上がり盾を構える。放たれた銃弾は盾に阻まれ霧散していった。

「撃て撃て撃てェェェ!!」

 だがグスタフの号令に従い、魔導士は持てる限りの魔力を叩き込む。舞い上がる白煙が視界を塞いでゆく。アージェは鎧を凝視するが、鎧は白煙に呑まれて輪郭を失ってゆく。

 どれだけの時間が経過したのだろうか、魔力の枯渇とともに静寂が訪れ、しだいに白煙が薄らいでゆく。

 するとアージェの知る魔法戦士の姿がそこにあった。揺らぐことのない背中を見たピピンが、声にならない声を上げる。

「ラ……ラドラァァァ……」

 ラドラ・ホーラ。かつては軍の参謀長候補と呼ばれながら、魔族に加担し軍に刃を向けた裏切り者。だが魔族にとっては、殺戮を繰り返す人間の軍勢に立ち向かった、異種族の英雄だ。

 ラドラは大陸の戦いで命を落としかけたところを、魔族の子供であったピピンに救われた。そしてピピンとの交流の中で、魔族が世界を統べる秘石(メルス・ラトイーテ)を崇拝し、魔法鉱石を護りながら、穏やかな日常を過ごしていることを知ったのだ。

 そう、魔法戦争の真実は、魔法鉱石を求める人間の欲望が引き起こす、身勝手な侵略だったということを。

 そもそも『魔族』という呼称は、『大陸の民』に対する虐殺の免罪符でしかなかった。人間に危害を加える種族だと思い込ませるための、政府の歪んだ印象操作だった。

 アージェが頭上を仰ぐと、ぽっかりと開いた空の中に一機の飛行艇が浮いていた。紛れもなく援軍だ。大陸に精通している者といえば――ドンペルの顔が真っ先に浮かぶ。

 ふたりが大陸に足を運んだ理由があるとすれば――アージェの搭乗していた飛行艇の墜落だ。身を案じて調査に来てくれたに違いない。

 ラドラは振り向いてピピンの頭に手を当てる。

「間に合ってなによりだ。積もる話もあるだろうが――まずは人間の不祥事を、同じ人間に片付けさせてくれ」

 一度は死を覚悟したピピンだったが、ラドラの加勢に安堵し涙目でその場にへたり込む。ピピンは誰よりもラドラの強さを知っているのだ。

「貴様は――ラドラ・ホーラだな!」
「浮遊要塞の総帥グスタフか。やはりドンペル先生の言っていたことは正しかったな。――大陸の民の味方を装って秘石を奪い、帝に献上し政府に取り入ろうという魂胆だろう?」

 グスタフは露骨に顔を歪めた。真実を射抜かれた者が見せる、醜い狼狽の顔だ。

「そうだとすれば、なんだと言うのだ。騒ぎたければ地獄で好きなだけ騒げばよい」

 口封じの殺戮はグスタフの常套手段だ。だから戦いの狼煙が上がるのは必然だった。

 ――まずいな。ラドラ先生とはいえ、ピピンを護りながらの戦闘は分が悪い。

 アージェもまた、ラドラの強さを知るひとりではあるが、この多勢を相手にしてピピンを無傷で逃がせるとは思えない。

「ラドラよ、クイーン・オブ・ギムレットの住処が貴様の墓場だ。魔族に情を抱いた貴様にとっては、安らかに眠れそうな場所だな。それも懐柔した少女のお供付きでな!」
「ほぉ、多勢であれば勝てると踏むような浅墓さで、よくもここまで生き残ってこられたものだ。浮遊要塞という古代の魔法兵器が発見されなければ、おまえはただの蛮族にしかすぎなかっただろうに」
「黙れ! 強き者が世界を支配する、それが世の常識だろうが!」

 力がすべて。暴力的な考えだが、それを否定できる者など誰一人としていない。生物は皆、力で優劣が決まっているのだ。アージェは戦う力を持たず、岩陰に隠れているだけの役立たずだと自分を呪いたくなる。

 その時、風に紛れてピピンの声が直接耳に届く。

『ラドラ、あたしは大丈夫だから。だって守ってくれる人がいるの』

 ピピンは魔法でラドラとアージェに声を届けた。ラドラは振り向かず剣の先を背後に向け、わずかに上下にゆり動かした。承知した、という意味に違いない。

 先手を打ったのはグスタフだった。「魔導軍団よ、ふたりを消し去ってしまえ!」と指示して大剣を振り上げる。

 魔導士たちは魔法銃を投げ捨てて詠唱を開始する。それぞれの属性における攻撃魔法である、火焔(かえん)風刃(ふうじん)石礫(いしつぶて)、そして氷槍(ひょうそう)が次々と具現化した。狙いはラドラだけでなく、ピピンにも定められていた。

 ラドラは怒涛の魔法攻撃を想定して姿勢を低くし身構える。すると突然、地面から岩盤がせり上がり、ラドラを包み込んで岩石の牢獄を形成した。

「何っ!?」

 防御に集中していたせいで初動が遅れた。

「くっ、魔導士の数の割に攻撃魔法が少ないと思ったが、そういう罠か!」

 最初からピピンとラドラを分断する作戦だったに違いない。

 ラドラはすかさず剣の打突で岩盤を打ち破る。だがその瞬間、空いた穴を狙い氷槍が幾重にも突き刺さった。(くさび)のように氷槍が穴を塞いで固まる。

 直後、氷槍を通して一閃の太刀筋が光る。派手な破砕音とともに氷槍は砕けて弾き返された。無数の氷の破片が魔導士たちに襲いかかる。魔導士は構えた火焔や風刃で氷の破片を防いだ。

 ふたたび魔導士が視線を戻すと、ラドラの姿は牢獄から消えていた。

「どっ……どこだ!?」

 ラドラは動揺する魔導士の頭上を跳躍する。宙返りをしながらグスタフの目の前に着地した。

「まずは大将を討つ。犠牲を最小限に抑える最善の手段はそれだ」

 剣を振り下ろすと、剣と剣が交錯して火花を散らす。剛腕のふたりの力比べに剣が甲高い悲鳴をあげる。

「ふっ、俺に狙いを定めたということは、魔族の女を見捨てたのだな。おまえの本性は俺とさして変わらんようだ」

 グスタフは魔導士に向かい、顎をしゃくって合図をする。

 魔導士の魔法がピピンを狙いすます。ピピンは立ち上がり、すかさず全速力で退避する。けれど数多の火玉や風刃が放たれ、牙を剥いてピピンに迫る。

「アージェッ!!」

 ピピンが岩陰に向かって叫ぶ。その瞬間――。

 ――『魔禁瘴・終焉の宴(ファイナルヴァンケット)!』

 岩陰から飛び出したアージェが漆黒の渦を放つ。渦はピピンを中心に放射状に広がり、防御の傘を形成した。敵の魔法は次々と渦に巻き込まれ消滅してゆく。グスタフは鼻の穴を膨らませて驚いた。

「その魔法は――まさかあの危険分子(・・・・)が生き残っていたとはッ!」
「グスタフ、俺の能力を知っているということは、ヴェンダールと繋がりがあったんだな!」

 想像が確信に変わる。やはりグスタフはアージェを狙って飛行艇を撃ち落としたのだ。思い返せばグスタフの襲撃によって多くの命が奪われた。メメル、セリアの両親、飛行艇の船長や冒険者たち――。

 アージェのまなざしは火花を散らし、闘志に満ちていた。

「グスタフ、もう誰もおまえの犠牲にはさせないからな!」
「くそっ、小賢しい若造がッ!」
「よそ見をするな、おまえの相手はこの俺だろ」

 ラドラは身体を回転させてグスタフの力を受け流し距離を取る。

「だがその前に、少女を狙う卑劣な奴らには消えてもらう」

 ラドラは無音のステップで魔導士の間を縫うように駆け抜ける。剣が躍り鮮血を舞い散らせる。魔法を放った直後の魔導士に、ラドラの攻撃を防ぐ手立てなどあるはずもなかった。まるで赤いカーペットの上で踊るかのようなラドラの剣技に、アージェは思わず目を奪われる。またたく間にすべての魔導士が地に伏した。

「ラドラ先生、助けにきていただいてありがとうございます! ピピンも無事です!」
「アージェよ、生きていたか! ならばあとは俺に任せろ!」

 ピピンは驚いて視線を行き来させる。

「えっ? えっ? ラドラとアージェって……」
「ラドラ先生は魔法学院の教師なんだ。だから先生の大陸での活躍は俺も知っているよ」
「ああっ、そんな偶然が起きるなんて……もしかしたらメルス様のお導きなのかもっ!」
「たしかに、このペンダントのおかげかもな」

 ピピンは不思議な運命の綾に瞳を潤ませる。アージェはペンダントを握りしめたが、今は感傷に浸る時間ではない。

 視線を移すとグスタフは不敵な笑みを浮かべていた。嫌な予感がしたと思った瞬間、秘石の裏に回り込んで身を隠した。

「くくっ、俺としたことが興奮のあまり本来の目的を忘れるところだった」

 グスタフは懐から小瓶を取り出し秘石の頂に振りかける。幾何学的な魔法の糸が出現し秘石をすっぽりと包み込んだ。

「まずいっ! 秘石が奪われるッ!」

 ラドラが吠えると同時にグスタフは大剣を水平に引き――迷いなく秘石の根元に叩き込む。

 バキィッッッ――!

「あああああああああッ!」

 ピピンの悲鳴が洞穴にこだまする。秘石の根元に大きな亀裂が入り、ゆっくりと傾いてゆく。ずぅん、と鈍い音を立てて地面に横たわる。

「メルス様になんてことを! あたしはおまえをゆるさないッ!」

 怒りをあらわにして飛び出したピピンを、アージェがすかさず取り押さえる。

「これ以上、無謀なことをするな!」
「だって……だってッ! あたしはメルス様をお守りする、魔法の寵愛を受けた民族(ラーゲルドゥーネ)』なんだから!」

 グスタフは達成感に満ちた笑みを見せつける。

「ラドラ・ホーラよ、勝負はおあずけだ。なにせヴェンダールはせっかちなものでな」

 そう言って懐から水色の魔法玉を取り出し空に投げる。魔法玉は勢いよく上空に飛んで爆発した。するとそれを合図に秘石が宙に浮かび上がる。誰かが浮遊要塞から魔法で遠隔操作をしているはずだ。

「さて、俺もこの場を去るとするか。――だが貴様ら、その口はいずれ封じてやるから覚悟しておけよ」

 孤軍では勝算が低いと踏んだのか、グスタフはもうひとつの小瓶を空け、自身の頭部にそれを振りかける。

「逃がすかッ!」

 ラドラはグスタフに向かって打突を連打する。だがグスタフは時間稼ぎの防御に徹し、付け入る隙を与えない。ラドラは盾を消滅させて両手で剣を振るうが、それでも逃げるグスタフを追い詰めることができないでいる。

「アージェッ! 石を浮遊させている魔法を消すんだッ!」
「もちろんですっ!」

――『魔禁障・静穏な捕縛(カーム・キャプチャ)

 言われるまでもなくアージェは魔法を発動させていた。魔禁障の黒霧ががっぽりと秘石を包み込む。しかし秘石が放つ強力な魔力に相殺されてしまい、魔法の糸まで魔禁障を到達させることができない。

「くっ、まさか秘石の魔力がこんなに干渉するなんて!」

 ラドラとグスタフが交戦する間、秘石は上空へと舞い上げられてゆく。

 その時、空で構えていた飛行艇から一頭の白馬が飛び立った。白馬の背中には武装したひとりの騎士の姿があった。

 百騎夜光(ハンドレッド・ナイト・ナイト・ライト)――ドンペルの夢幻魔法だ。

 ドンペルを乗せた白馬は秘石の上に降り立った。魔法で紡ぎ上げた強靭な締縄で秘石を縛り上げ、その締縄の先端を岩盤から突き出た巨大な岩に結びつける。岩石破砕の魔法を唱えて岩盤から岩を切り離すと、巨大な岩は重力に導かれて転がり落ちる。

びん、と締縄が張り、岩の重みで秘石が高度を下げてゆく。巨大な岩にかかる重力は、遠隔魔法の威力を超えたのだ。

「よし、いけるぞドンペル!」

 ラドラは空を仰いで声を上げる。だが、その希望は一瞬で打ち砕かれた。

 突然、禍々しい姿の巨大な蛇が空に現れ、ドンペルに向かって襲いかかる。ドンペルは身を翻しかろうじて避けたが、白馬は大蛇に噛みつかれて消滅した。想定外の不意打ちでドンペルは空中に投げ出された。

 ドンペルは即座に木の(いかだ)を空中に発現させて着地し難を逃れた。だが精神集中が途切れたせいで締縄は消滅し、岩が地面に向かって落下する。地面にめり込む鈍い音を立て、土砂があたりに飛び散った。

 自由になった秘石はぐんぐんと空へ吸い込まれてゆく。アージェはその先の空に浮かぶ、ひとりの人物の姿に気づいた。

 ぎらぎらと光沢を放つ銀白色の髪、血で染め上げたような真紅のタキシード、そして闇夜のような黒いシルクハット。嘲笑うような笑みを浮かべてアージェを視線で突き刺す男――間違いない、ヴェンダールだ。指揮を執るように両手をリズミカルに動かし、浮遊魔法を操っている。

 グスタフは空に向かって声を張り上げる。

「さあヴェンダールよ、クイーン・オブ・ギムレットを手に入れた以上、この場に用はない。俺も戦略的撤退を図るぞ!」

 グスタフの身体は魔法の糸で包まれており、退避の準備は整えられていた。だがヴェンダールの視線がグスタフに向けられることはない。

「おいヴェンダール、聞こえているのか! 目的は達成したのだから早く対処しろ!」

 その焦燥をラドラは見逃さなかった。ラドラは剣を絡め取るように剣身を捻り、身体をグスタフの懐に滑り込ませる。股の下に片足を差し込み、剣の柄頭をグスタフのみぞおちに突き立てた。

「ぐふっ!」

 うめき声をあげてのけぞるグスタフ。よろける瞬間につま先で足を引っ掛けると、あえなく地面に倒れ込む。腕で受け身を取ろうとした瞬間を狙い、手を剣で叩きつける。剣がこぼれ落ち、取り戻そうとする手を靴底で踏みつける。同時に首筋に剣先を突きつけグスタフの動きを封じた。勝負が決したのは明らかだった。

 上空を見上げると、ヴェンダールと秘石の姿は消え失せていた。秘石が奪われたという事実にピピンは愕然とし、放心状態でその場に崩れ落ちた。アージェも切り株の姿になってしまった秘石を見て悔しさを滲ませる。

「どうやら今度はおまえが裏切られる立場になったようだな。しかも浮遊要塞まで奪われるとは思ってもいなかっただろう?」
「くっ……ヴェンダールめ、戦略的互恵関係だとか言いやがって!」
「おいおい、ヴェンダールを恨むなよ。おまえは常々思っていたのだろう? 騙された奴が悪いのだと」
「クソッ、こうなった以上、恥をさらす気はない。さっさと殺せ!」

 グスタフは観念したのか、血走った目をラドラに向けて怒鳴りつけた。

「悪いが殺すつもりはない。ほんとうにおまえを殺したいと思っている奴は別にいるからな」

 上空の飛行艇が高度を下げて着陸する。運転席にドンペルの姿が見えた。ラドラが飛行艇に目を向けると扉が開く。

 一番に降りてきたのはセリアだった。たん、と勢いよく地面に足をつけるやいなや、長い黒髪を振り乱して全力でこちらに駆け寄ってくる。

 セリアは真っ先にアージェに飛びついて、その首に強く、強くしがみつく。無言で数秒が過ぎた。アージェは困ったような、照れたような顔をしてそっと耳元で尋ねる。

「セリア、学院の授業はだいじょうぶなのか?」

 セリアは勢いよく顔を上げる。

「アージェの馬鹿馬鹿馬鹿ッ! 授業なんて聞いていられるわけないでしょ! 生きているなら生きているって連絡くらいくれたらどうなのよ! わたし、すっごくすっごく心配したんだからねっ!」

 瞳に涙をため、怒ったような、安堵したような顔でアージェを直視するセリア。アージェはその迫力に気圧されておずおずと言い訳をする。

「いや、だって連絡手段がないからしょうがないじゃん。どうすれば帰れるのかもわからなくて……」
「だったら魔法鉱石を開拓している部隊でも捜しなさいよ! 魔族との戦火をたどれば軍がいるはずじゃない!」
「いや、その魔族の件なんだけどさ……」

 (たかぶ)るセリアに向かってアージェは諭すように言う。

「彼ら大陸の民は、ほんとうは魔族でも敵でもないんだよ」
「えっ、どういうこと……?」

 セリアが彼女らしい生真面目な表情を取り戻す。

「俺は今まで、その『魔族』――正確には『大陸の民』と一緒にいたんだ。ほら」

 振り向くと、ピピンが切り株の姿になった秘石にすがりつき、肩を震わせている。

「大陸の民は崇拝する秘石を守るために戦っていただけだ。虐殺を繰り返しているのは欲望に駆られた人間のほうなんだよ」
「まさか……そんな……」

 セリアは幼少の頃から「魔族は敵」と教わってきたというのに、その概念が覆されて困惑する。アージェは嘘偽りを口にするような人ではないと、セリアは重々承知しているのだ。

「そしてついに人間が、大陸の民にとっての神である秘石を奪っていったんだ」

 秘石からの声はもう、届かなくなっていた。魔力の残滓を感じるものの、その力はきわめて弱く、いつ消えてもおかしくないほどだった。あたりの岩盤から発せられていた魔法の光も消退していた。

 遅れて飛行艇から降りてきたドンペルはラドラの隣に並び、アージェとセリアの様子を遠巻きに眺める。グスタフはドンペルの魔法で作られた締縄でがんじがらめにされていた。

「しかし奇遇なこともあるものだな、ラドラよ」
「まさかこの場に居合わせた魔族がピピンだとはな。しかもアージェの奴とタッグを組んでいたなんて驚きとしか言いようがない」
「それなら独断で飛行艇から飛び出すのも無理はない。儂やセリアだったら、魔族の娘など構わずこいつ(・・・)を殺してしまっただろうから」

 ドンペルは自身の足元に視線を下ろす。顔を踏まれて地に伏すグスタフを睨みつける。

「儂の大切な友人、バルトとエオリアはこいつに殺された。今すぐにでも八つ裂きにして焼き尽くしてやりたいわ。骨も残らぬくらいにな」
「だがドンペルよ、こいつには利用価値がある。軍についての情報を得るための手段となるだろうよ」

 グスタフが身悶えをして抵抗する。

「クッ、軍人の誇りにかけてそんなこと――うぐっ!」

 ドンペルは喋りかけたグスタフの口の中に魔法の石礫を発現させた。舌を噛んで自死するのを防ぐためだ。

「こいつの犯した罪は死んで償えるものではない。だから儂が死よりも苦しい生を味あわせてくれよう」

 冷酷な視線で敵を威圧するドンペルは、まさに戦禍を生き抜いた魔法使いそのものであった。