アージェはプリマに抱えられて命からがら城に舞い戻った。すぐさまパンツ一枚の姿にされ、全身の手当を施された。薬草は刺激が強く、灼熱の焔で焼かれたような苦痛に悶絶する。

「イッテェェェ! 染みるゥゥゥ!!」
「アージェ様、化膿したらおおごとです。どうか耐え忍んでください」

 さいわい、首のリングがアージェを締め付けることはなかった。心が折れてさえいなければ発動はしないようだ。

「全身は傷だらけですが、骨には支障ないようです。でも数日は休んだ方がよさそうな傷です」
「いや、そんな時間の余裕はありません。ですから明日も挑みます!」
「ご無理なさらないで、と言っても無駄なんでしょうね。――それでしたら必ず蒸し風呂で体を癒してください」
「そうさせてもらいます。ところで――」
「はい?」

 アージェは心に抱いた疑問を投げかける。

「魔女の課題を成功させた挑戦者はいるんですか?」
「あの……課題はそれぞれ異なりますが、ちゃんといらっしゃいます」
「それなら安心しました。けど、その挑戦者も生命の再生が目的だったんですか」

 挑戦者がどんな願いを抱いて魔女の城を訪れるのか知りたかったが、プリマは困ったような表情で視線をそらす。

「ほかの来訪者の詳細については控えるように言われています」
「そうですか……」
「生命の根源に関わることですから秘密が多いんです」

 やはり魔女の能力は、やすやすと口外できるものではないということか。けれどその秘匿性がアージェの期待感をさらに高まらせる。

「ところでプリマさんはどこの島から来たんですか」
「私、じつはこのヴェルモア島で生まれ育っています」
「ほんとうですか!?」

 物腰やわらかく言葉遣いも上品で、教育が行き届いている島で育ったのだろうと思っていたのに。この冒険者だらけの島には似つかわしくない女性だとアージェは不思議に思う。

「もしかして、ほかの島のことは知らない……とか?」
「ええ、この島から出たことはありません。魔女様の命令に背くわけにはいかないですから」

 どうしてプリマが魔女の下で働いているのかはわからないが、狭い世界に閉じ込められているのが不憫に思えた。そこでアージェは提案をする。

「じゃあ、俺の出身のポンヌ島と、魔法学院のあるグレイマン島のことを語らせてください」
「まあっ、よろしいんですか? ぜひとも知りたいです!」

 プリマが嬉しそうな顔をしたのでアージェも笑顔で返す。

「面倒を見てもらうばかりでは悪いですしね」

 それからアージェはヴェルモア島を訪れるにいたるまでの経緯を話し始めた。

 メメルがポンヌ島の襲撃で命を落とし、魂が宝石の中に閉じ込められたこと。

 セリアとともに魔法学院の入学を目指していたが失敗し、補助員として働いていたこと。

 それにポンヌ島やグレイマン島の風景や街並み、口にした料理、出会った人々のことなど。

 けれどリリコの正体が行方不明の王女、アナスタシアだとは口にできなかった。だからヴェンダールの襲撃のことには触れなかった。

「グレイマン島……魔法が溢れているなんて、とても華やかな島なんですね」
「夜、魔法が昇華する光景は圧巻でしたよ。ずっと忘れられないです」

 アージェはリリコと眺めた、光が共演する夜空を思い出していた。

「そんな自由な世界、憧れます。行ってみたいなぁ……」
「この島しか知らないなんて、プリマさんは人生損していますよ。外の世界を見たいのなら、魔女に頼んでみてはどうですか」
「そうですね……」

 ふと寂しそうな表情をするプリマ。その顔を見てアージェは思う。

 魔女の城にはメイドはひとりしかいない。だから責任感が足枷となって自由な時間を失っているのではないか、と。

 ――よし、課題をクリアできたら、プリマさんが休養をもらえるよう、魔女にお願いしてみるか。

 アージェはそんな思惑を心に抱き、挑戦の気持ちを新たにした。