ヴェンダールは隠れ家のような魔法研究室でひとり、アージェを映す魔晶板を眺めていた。

「懐かしいですなぁ。この寂れた酒屋、閑散とした街並み、闇を溶かしたような深い森……」

 ヴェルモア島――そこはかつてヴェンダールが訪れたことのある場所だった。目的は魔女に帝の願いを叶えさせる(・・・・・・・・・・・・・)ためだ。

 それは十余年前のことで、女王シャルロットが魔法の侵蝕によって倒れ、命の灯が消えようとしている時のこと。不老不死の魔女であれば、シャルロットの死を回避できると考えたのだ。ヴェンダールはガルシアを絶望から救うため、命を賭して魔女に挑んだのである。

 結果として女王の死を回避することはできなかった。しかし得られた成果は大きかった。

 ヴェンダールの膝の上には、一冊の魔導書が置かれている。目的を達成し、魔女から奪い取った(・・・・・)宝である。

 古代文字で書かれた本。そのタイトルは――。

生命再生の魔導書(アスト・ヴェルケロニック)

 しかし単体ではなんの役にも立たないものだと、魔女は去り際のヴェンダールに言い放った。

 それを発動させるには大量の、それも高純度の魔力を要する。その魔力を供給できる唯一の源こそが大陸(コンタナ)のどこかに存在する『クイーン・オブ・ギムレット』にほかならなかった。

 ヴェンダールはその場所を突き止めるため、ある作戦を極秘に遂行している。

 しかしその作戦の概要は、帝にすら伝えられてはいなかった。