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アージェはホールに向かいながら考えていた。魔晶板の中に見えた竜牙戦士の数は七体。これらを同時に解除しなければならない。
なぜなら魔法で操られた者は、一体が攻撃を感知するとほかの個体も狂暴化する特性があるからだ。そうリリコの授業で教わったばかりだった。
けれど、ホールに散らばる竜牙戦士を一瞬で葬り去る方法があるのだろうか。
ふと、アージェは上級生が成功させた複合魔法を思い浮かべる。
――そうだ、もしかするとすべてを一瞬で解除できるかもしれない。でも俺だけの力では無理だ。
ホールに近づくと生徒たちの叫び声が耳に届く。恐怖と絶望に支配された声だった。
外部からの侵入を防ぐため、中央ホールの扉は魔法で施錠されている。けれどそのせいで生徒たちはホールから逃げ出すことができなかった。
アージェは魔法を発動させて鍵を解除する。
――『魔禁障・解《ディスペル》!』
扉を開けると魔晶板で目にした悪夢の光景が広がっていた。正確にはまさに悪夢が訪れる瞬間の光景だ。竜牙戦士は魔晶板を通して見るよりもずっと大きく見えた。剣を振り上げ、今にも生徒たちを切りつけようとしている。
「セリア、どこにいる!」
「アージェ、ここよ!」
呼びかけると生徒の集団の中から返事があった。人ごみを掻き分けるようにしてセリアが姿を現す。
「俺がこいつらを消すから力を貸してくれ!」
「わかった!」
たったそのひとことだけで、セリアはアージェの言わんとしていることを理解した。
アージェとセリアは魔法を詠唱しながらホールの中央に向かって走り込む。アージェの拳に纏う黒霧は、しだいにその密度を増していく。
「セリア、準備はいいか!」
「もちろんよ!」
ふたりは呼吸を合わせて魔法を発動させた。
――『魔禁瘴・終焉の宴!』
――『降裂の風!』
アージェを中心に強烈な下降気流の竜巻が発生する。発動した魔禁瘴の霧を呑み込んで漆黒の竜巻に変化した。竜巻は勢いを増しながら一気にホール全体に広がる。生徒も教師も、そして竜牙戦士も竜巻に巻き込まれて吹き飛ばされた。視界は黒い霧で覆われ何も見えなくなった。
しだいに竜巻が収まり、ホールに静寂が戻る。黒霧に遮られていた視界が徐々にクリアになった。生徒たちがおそるおそる目を開けると、ホールの中央には背中合わせで身構えるアージェとセリアの姿があった。
竜牙戦士の姿は一体残らず消え失せていた。魔法によって操られていた存在は、魔法が消されたことでその機能を失ったのだ。
ふたりはほっとため息をつく。
「アージェ、ありがとう。おかげで助かったわ」
「セリアも俺の意図によく気づいてくれたな」
ホールの生徒たちは皆、驚きの目でふたりを見ていた。まさか新入生と補助員のふたりが生粋で、この危機を複合魔法で回避するなど、誰も想像できなかった。
上級生のセンスイとオクトサンドが拍手をしてふたりの活躍を讃える。
「信じられないことだ。こんな逸材が入学していたとは」
「このぶんだと魔法学院の未来も明るいわね」
アージェとセリアは照れて顔を見合わせる。けれど、アージェはすぐさま真剣な顔に戻る。
「そうだ、外でも戦いは続いているはずだ!」
「いや、もう終わったに違いあるまい」
センスイが窓の外を指さすと、そこには静かな夜空が広がっているだけだった。
アージェはホールに向かいながら考えていた。魔晶板の中に見えた竜牙戦士の数は七体。これらを同時に解除しなければならない。
なぜなら魔法で操られた者は、一体が攻撃を感知するとほかの個体も狂暴化する特性があるからだ。そうリリコの授業で教わったばかりだった。
けれど、ホールに散らばる竜牙戦士を一瞬で葬り去る方法があるのだろうか。
ふと、アージェは上級生が成功させた複合魔法を思い浮かべる。
――そうだ、もしかするとすべてを一瞬で解除できるかもしれない。でも俺だけの力では無理だ。
ホールに近づくと生徒たちの叫び声が耳に届く。恐怖と絶望に支配された声だった。
外部からの侵入を防ぐため、中央ホールの扉は魔法で施錠されている。けれどそのせいで生徒たちはホールから逃げ出すことができなかった。
アージェは魔法を発動させて鍵を解除する。
――『魔禁障・解《ディスペル》!』
扉を開けると魔晶板で目にした悪夢の光景が広がっていた。正確にはまさに悪夢が訪れる瞬間の光景だ。竜牙戦士は魔晶板を通して見るよりもずっと大きく見えた。剣を振り上げ、今にも生徒たちを切りつけようとしている。
「セリア、どこにいる!」
「アージェ、ここよ!」
呼びかけると生徒の集団の中から返事があった。人ごみを掻き分けるようにしてセリアが姿を現す。
「俺がこいつらを消すから力を貸してくれ!」
「わかった!」
たったそのひとことだけで、セリアはアージェの言わんとしていることを理解した。
アージェとセリアは魔法を詠唱しながらホールの中央に向かって走り込む。アージェの拳に纏う黒霧は、しだいにその密度を増していく。
「セリア、準備はいいか!」
「もちろんよ!」
ふたりは呼吸を合わせて魔法を発動させた。
――『魔禁瘴・終焉の宴!』
――『降裂の風!』
アージェを中心に強烈な下降気流の竜巻が発生する。発動した魔禁瘴の霧を呑み込んで漆黒の竜巻に変化した。竜巻は勢いを増しながら一気にホール全体に広がる。生徒も教師も、そして竜牙戦士も竜巻に巻き込まれて吹き飛ばされた。視界は黒い霧で覆われ何も見えなくなった。
しだいに竜巻が収まり、ホールに静寂が戻る。黒霧に遮られていた視界が徐々にクリアになった。生徒たちがおそるおそる目を開けると、ホールの中央には背中合わせで身構えるアージェとセリアの姿があった。
竜牙戦士の姿は一体残らず消え失せていた。魔法によって操られていた存在は、魔法が消されたことでその機能を失ったのだ。
ふたりはほっとため息をつく。
「アージェ、ありがとう。おかげで助かったわ」
「セリアも俺の意図によく気づいてくれたな」
ホールの生徒たちは皆、驚きの目でふたりを見ていた。まさか新入生と補助員のふたりが生粋で、この危機を複合魔法で回避するなど、誰も想像できなかった。
上級生のセンスイとオクトサンドが拍手をしてふたりの活躍を讃える。
「信じられないことだ。こんな逸材が入学していたとは」
「このぶんだと魔法学院の未来も明るいわね」
アージェとセリアは照れて顔を見合わせる。けれど、アージェはすぐさま真剣な顔に戻る。
「そうだ、外でも戦いは続いているはずだ!」
「いや、もう終わったに違いあるまい」
センスイが窓の外を指さすと、そこには静かな夜空が広がっているだけだった。