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生徒たちは不安げな表情で中央ホールに集まっている。なぜなら、ここに同伴する教員は、薬草師や創傷治癒師など、非戦闘系の者ばかりだからだ。それは外で教員による戦闘が行われていることを意味する。紛れもなく、何者かが魔法学院を襲撃しているのだ。
轟音が響き渡り地面が断続的に揺れる。それでも損壊を受けないのは、ガーベラの隔絶空間が攻撃の漏出を封じているためである。
セリアは生徒の集団を目で探っていたが、そこにアージェの姿はない。戦闘に駆り出されているのではないかと不安になる。外で爆音が鳴り響いた。
「きゃあっ、やだやだやだ! 絶対、外に何かがいるよぉ!」
ルイーズは極度の不安でパニックになっている。
「ここの教員たち、みんな強い人ばっかりなんでしょ。信じて大丈夫だからっ!」
セリアはそう言いながらも沸き起こる不安を拭えない。
すると隣のブリリアンが急にうめき声をあげた。口元に手を当て、込み上げてくる何かを必死に押さえている。血の気が引いた、真っ青な顔。スオルが駆け寄って介抱する。
「ブリリアン様、大丈夫ですか」
「気にするな、ちょっと気分が悪くなっただけだから……」
「無理せず横になってください!」
「少し休めば、たぶんよくなるはず……ウッ、ウッ、ウオオオエエエェェェッ!」
床にどぼどぼと吐瀉物が撒き散らされる。生徒たちは小さな悲鳴をあげてブリリアンから身を遠ざけた。腐敗した臭いがホールに広がり、皆、すぐさま鼻をつまんだ。吐物を目にしたルイーズの肌がさらに粟立つ。ブリリアンはその場にうずくまり、白目をむいて気を失った。
ルイーズはそろそろと近づいてブリリアンの顔をのぞき込む。セリアも遠巻きに様子をうかがう。すると吐瀉物の中には、灰白色をした鋭い石のようなものがいくつも含まれていた。生粋であるセリアは異様な雰囲気を感じ取った。その吐瀉物から魔力が立ち込めているのだ。
「みんな、この場から離れて!」
危機を感じて声を上げると同時に、その石が次々と膨らみ始めた。しだいに人骨の形を取り、人の背丈よりも大きな骸骨の姿を形成した。手には石の剣を携えている。
竜牙戦士。魔法で操られた、命を持たない戦士が七体。無論、人を殺すのに躊躇するような感情などは持ち合わせていない。生徒たちは悲鳴をあげて中央ホールの隅へと逃げる。
スオルも必死にブリリアンを引きずり避難するが、竜牙戦士はスオルに気づいて狙いを定めた。顎の骨をカタカタと鳴らしながら歩み寄ってくる。あたかも血を見たくて我慢できないと言わんばかりに。
「ヒィィィィィッ!」
ほかの竜牙戦士も生徒を標的とみなし、剣を振りかざして一直線に襲いかかってきた。恐怖の悲鳴がホールを包み、生徒たちは混乱に陥った。
こうなったら、生粋のわたしが戦うしかない、セリアがそう決意した瞬間だった。どこからか業火の竜巻が放たれ、竜牙戦士を呑み込んで宙へと舞い上げる。
皆が振り向いた視線の先で、ふたりの学生が魔法を発動させていた。金色の縁取りの魔法衣は特待三年生の証。
「オクトサンド! 今日もいい風を吹かせるじゃねえか!」
「センスイ、あなただっていつも熱い男よね!」
ギムレットを用いずとも魔法を発動させたということは、ふたりとも生粋の魔法使いに違いない。しかも、修練をともにしてこそ実現できる複合魔法を成功させている。突然の窮地にいともたやすくそれを実践してみせた彼らの勇姿に、畏敬を込めた歓声が沸き起こる。
舞い上がった竜牙戦士は床に叩きつけられ、煙を立ち上らせる。
「これで起き上がるなんてことはあるまいな」
「それ、もしも生身の人間だったら、の話よね」
竜牙戦士はふたたび立ち上がり、気を取り直したように剣を構えた。凹んだ黒い目がふたりを捉えて離さない。
「ちっ、魔法ではダメージは通らねえか」
「時間稼ぎにしかならないわ。魔法で操作されているから、物理攻撃で破壊するか、僧侶の聖光でなくちゃ土には還せないかも」
「そうなると魔力の限界まで粘るしかないってことかよ。覚悟はいいか、オクトサンド!」
「覚悟なんてものは、おはようの挨拶みたいなものよ。戦う魔法使いを目指した時からね」
そして中央ホールはいつ尽きるかわからない炎と風が渦巻き続ける。
来るかもわからない、誰かの助けをひたすら待ちわびながら。
生徒たちは不安げな表情で中央ホールに集まっている。なぜなら、ここに同伴する教員は、薬草師や創傷治癒師など、非戦闘系の者ばかりだからだ。それは外で教員による戦闘が行われていることを意味する。紛れもなく、何者かが魔法学院を襲撃しているのだ。
轟音が響き渡り地面が断続的に揺れる。それでも損壊を受けないのは、ガーベラの隔絶空間が攻撃の漏出を封じているためである。
セリアは生徒の集団を目で探っていたが、そこにアージェの姿はない。戦闘に駆り出されているのではないかと不安になる。外で爆音が鳴り響いた。
「きゃあっ、やだやだやだ! 絶対、外に何かがいるよぉ!」
ルイーズは極度の不安でパニックになっている。
「ここの教員たち、みんな強い人ばっかりなんでしょ。信じて大丈夫だからっ!」
セリアはそう言いながらも沸き起こる不安を拭えない。
すると隣のブリリアンが急にうめき声をあげた。口元に手を当て、込み上げてくる何かを必死に押さえている。血の気が引いた、真っ青な顔。スオルが駆け寄って介抱する。
「ブリリアン様、大丈夫ですか」
「気にするな、ちょっと気分が悪くなっただけだから……」
「無理せず横になってください!」
「少し休めば、たぶんよくなるはず……ウッ、ウッ、ウオオオエエエェェェッ!」
床にどぼどぼと吐瀉物が撒き散らされる。生徒たちは小さな悲鳴をあげてブリリアンから身を遠ざけた。腐敗した臭いがホールに広がり、皆、すぐさま鼻をつまんだ。吐物を目にしたルイーズの肌がさらに粟立つ。ブリリアンはその場にうずくまり、白目をむいて気を失った。
ルイーズはそろそろと近づいてブリリアンの顔をのぞき込む。セリアも遠巻きに様子をうかがう。すると吐瀉物の中には、灰白色をした鋭い石のようなものがいくつも含まれていた。生粋であるセリアは異様な雰囲気を感じ取った。その吐瀉物から魔力が立ち込めているのだ。
「みんな、この場から離れて!」
危機を感じて声を上げると同時に、その石が次々と膨らみ始めた。しだいに人骨の形を取り、人の背丈よりも大きな骸骨の姿を形成した。手には石の剣を携えている。
竜牙戦士。魔法で操られた、命を持たない戦士が七体。無論、人を殺すのに躊躇するような感情などは持ち合わせていない。生徒たちは悲鳴をあげて中央ホールの隅へと逃げる。
スオルも必死にブリリアンを引きずり避難するが、竜牙戦士はスオルに気づいて狙いを定めた。顎の骨をカタカタと鳴らしながら歩み寄ってくる。あたかも血を見たくて我慢できないと言わんばかりに。
「ヒィィィィィッ!」
ほかの竜牙戦士も生徒を標的とみなし、剣を振りかざして一直線に襲いかかってきた。恐怖の悲鳴がホールを包み、生徒たちは混乱に陥った。
こうなったら、生粋のわたしが戦うしかない、セリアがそう決意した瞬間だった。どこからか業火の竜巻が放たれ、竜牙戦士を呑み込んで宙へと舞い上げる。
皆が振り向いた視線の先で、ふたりの学生が魔法を発動させていた。金色の縁取りの魔法衣は特待三年生の証。
「オクトサンド! 今日もいい風を吹かせるじゃねえか!」
「センスイ、あなただっていつも熱い男よね!」
ギムレットを用いずとも魔法を発動させたということは、ふたりとも生粋の魔法使いに違いない。しかも、修練をともにしてこそ実現できる複合魔法を成功させている。突然の窮地にいともたやすくそれを実践してみせた彼らの勇姿に、畏敬を込めた歓声が沸き起こる。
舞い上がった竜牙戦士は床に叩きつけられ、煙を立ち上らせる。
「これで起き上がるなんてことはあるまいな」
「それ、もしも生身の人間だったら、の話よね」
竜牙戦士はふたたび立ち上がり、気を取り直したように剣を構えた。凹んだ黒い目がふたりを捉えて離さない。
「ちっ、魔法ではダメージは通らねえか」
「時間稼ぎにしかならないわ。魔法で操作されているから、物理攻撃で破壊するか、僧侶の聖光でなくちゃ土には還せないかも」
「そうなると魔力の限界まで粘るしかないってことかよ。覚悟はいいか、オクトサンド!」
「覚悟なんてものは、おはようの挨拶みたいなものよ。戦う魔法使いを目指した時からね」
そして中央ホールはいつ尽きるかわからない炎と風が渦巻き続ける。
来るかもわからない、誰かの助けをひたすら待ちわびながら。