「セリアちゃん、お疲れ様。無事、課題はクリアできたみたいだね」

 リリコは肩の荷が下りたようで、ほっとした顔でセリアをねぎらう。安心したせいか、セリアの呼び方が「さん」から「ちゃん」に変わっていた。

「リリコさんがいなかったら、わたし、何も知らずにシュヴァルツワルト先生を手にかけてしまうところだった」
「ううん、とにかく誰も怪我しなくてよかったわ。ははっ」
「アージェにも助けられたわ。ありがとうって言うべきよね」
「礼なんていらないさ。――しっかし、リリコって偉そうだよな。俺らだけじゃなくてシュヴァなんとか先生にまであんなに遠慮ないなんて」

 アージェはリリコの横柄ともいえる態度を指摘して口をへの字にする。

「受かってもいないアージェ君にそんなこと言われる筋合い、まつ毛の先ほどもないわ!」
「へっ、軽く受かってみせるさ。なめるなよ、俺の激レア魔法の潜在能力(ポテンシャル)を!」
「激レアって言っても、もう見られちゃったじゃない。ネタバレ後の面接試験、せいぜい頑張ってね」

 言い合っていると、ドンペルがひとつ咳ばらいをしてから手を扉へと差し向ける。

「では次の試験に移りますぞ。リリコ殿とセリア・フォスターには退席を願いたい」
「はい、ありがとうございました」
「今度はごく普通の面接をなさいね、ドンペル」
「リリコ殿、かくのような無茶は二度といたしませんのでご安心を」
「よろしい」

 ふたりが部屋を出て行ったのを確かめたドンペルは、アージェと向かい合い尋ねる。

「ようこそランブルス魔法学院へ。――では、名前を確認させてもらいたい」
「アージェ・ブランクです」

 アージェの姓、『ブランク』とは『空白』の意味。家系が不明な孤児に付けられる名字なので、それだけで捨て子だと判断できてしまう。ドンペルは一瞬、憐みの表情を浮かべた。

「それでは試験の課題だが――」

 言いかけた次の瞬間――。

「クックドゥードゥルドゥー! 面接試験は終了! 終了です!」

 壁の怪鳥が高らかな声をあげる。

「なんでっ!?」
「何故だッ!?」

 ふたりは同時に目を見開いた。何かの間違いとしか思えなかった。けれど続く怪鳥の発した言葉はあまりにも予想外で無慈悲なものだった。

「不正行為に該当します! 他者の面接試験を盗み見たため、受験資格は自動的にはく奪されました!」
「ちょっ、ちょっと待て! 試験官は儂だぞ!? しかも左脚の恩人じゃ! 今すぐ取り消せ!」
「俺はリリコに頼まれただけだ! 不正行為なんかじゃない! 試験を受けさせてくれ!」

 ふたりは怪鳥に盾突くが、怪鳥は感情の欠落した声で淡々と受け流す。

「体系化された受験監査システムにより、すでに処理は終了しています。以上。プツン……」
「ああっ……!」

 怪鳥はまぶたを閉じ、死んだようにおとなしくなってしまった。

「うおおおおおおいッ!!」

 ドンペルが怪鳥の首を掴んで激しく振るが、まるで反応がない。

「まさか、手を貸しただけで不合格になるなんて……」

 アージェはその場にがっくりとうなだれる。

「アージェ殿よ、儂の不手際でこんなことになろうとは、申しわけなくて言葉もない……」

 けれどドンペルの謝罪の言葉がアージェの耳に届くことはなかった。