ガッシャーン!

「きゃあ、またやっちゃったぁー!」

 ポンヌ孤児院の食堂で、のんきな叫び声があがる。声の主であるメメルはふわくしゅの金髪頭を抱えておろおろしている。床には砕け散った器の残骸と、スープが描く地図模様。

 すぐさま駆け寄ってきたのは、黒髪の青年アージェ。みっつ年上の彼はメメルの兄貴分であり、お守り役でもある。転がるロールパンを拾い上げてすかさず息を吹きかけた。

「メメル、今月で三度目だぞ。その散漫な注意力、どうにかならないのか」
「これは……そう、身代わり! この器が壊れてアージェのことを助けたんだよ!」
「はぁ? そんな屁理屈が通るかってーの。とにかく片付けとくから急げよ」
「あたしもやる! 責任とってごめんなさいするー!」
「やめとけ馬鹿、怪我したらどうする。これから試合だろ、黙ってとっとと飯食ってろ」

 アージェは視線をテーブルのほうに向け、同級生の女子を呼びつける。

「セリア、かわりに俺のスープを持ってきてくれ」
「まったくもう、メメルちゃんには優しいんだから」

 セリアと呼ばれた女の子はアージェに盛られたスープを手に取りメメルの席に置いた。メメルは勢いよく席に座ってスプーンを手にする。

「あふん、アージェ、これって守ってあげたお返し?」
「なわけねーだろ。おまえに守られる理由なんか微塵もねぇよ」
「ぶー、あたしだっていつかアージェを守れるくらい強くなってやるもん!」

 メメルは一瞬、ふくれっ面になったけれど、すぐさま笑顔に戻ってパンを受け取る。

「とにかく早く食べろ。遅れて失格とかシャレにならないからな」
「はぁーい、んむぁむふ……」

 一気に食事をたいらげ、息つく暇もなく立ち上がる。ひょいっと軽やかにテーブルを飛び越え、駆け足で食堂を出て行った。

「それじゃアージェ、セリア姉ちゃん、応援よろしくねー!」

 振り返って大きく手を振るメメルに、アージェはやれやれと呆れ顔。けれど内心、悪い気はしなかった。孤児となったメメルに希望の光を灯し続けることが、アージェにとっての本懐なのだから。