映像が終焉を迎える。ルームBは静寂に沈んでいた。しばらくの間があってから、ようやっとドンペルが口を開く。

「――儂は大陸で浮遊要塞の襲撃を受けた、唯一の生存者だ。これの意味することがわかるか、セリア・フォスターよ」
「はい。軍の秘密に気づいてしまった以上、口を封じられるのではないかと思います」

 セリアはひどく動揺していたが、かろうじて理性と意味のある返事を紡いだ。

「儂が中央都市を去り、この魔法島グレイマンに移ったのは軍からの逃亡と同義だ」
「魔法学院にいれば、軍でさえ手出しできないから、ということですね。魔法に関する機密事項があるため治外法権と聞いています」
「そうだ。だが、魔法都市を拠点としたのは同志を集めるためでもある。この長年にわたる大陸の魔族、そして浮遊要塞との戦いの理由を明らかにするためのな」
「じゃあ……この魔法学院には特殊な事情を抱えた教員もいらっしゃるということなんですね」
「たしかにここの教師は、そんな異端の者が集っていると言えよう。だが、魔法の腕はたしかな者ばかりだ」

 ドンペルは咳ばらいをひとつしてから、あらためて深々と頭を下げる。

「ひとりだけ生き残ったことを心から謝罪したい。そして今までエオリアの遺言を伝えられなかったことも申しわけなかった」
「事情はわかりました。でも……」

 セリアは何年も目の前の男を恨み続け、復讐心を糧に魔法を鍛え上げてきた。真に復讐すべき相手がどこかにいるはずとはいえ、すぐさま矛先を向け変えられるほどセリアの執念は軽くない。

 だから今、セリアができる返事とは――。

「……どうか時間をください。ほんとうに追うべき相手が誰なのか、これから見極めたいと思います。そして来たるべき戦いの日に備え、この魔法学院で力をつけたいのです」
「そうきたか、誇り高き風魔法一族の末裔、セリア・フォスターよ」

 ドンペルは自身の足に視線を向ける。試験の課題である組紐はいまだ巻かれたままだ。ドンペルはみずからその紐を解きセリアに差し出した。

「おぬしが砕いた時計は止まったままだ。受かりたくば、今ここで組紐を奪い取るがよい」
「はい、慎んでお受けいたします」

 組紐を強く握りしめ、ドンペルの手から一気に引き抜く。手中に収めると同時に壁の怪鳥が羽をばたつかせて高らかな声をあげた。

「クックドゥードゥルドゥー! 面接試験は終了です!」