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 十二人の精鋭部隊(クーケンス)の勇士たちは、新たな鉱脈の発見という収穫を手にし、大いに盛り上がっていた。

 大陸(コンタナ)の奥深くまで切り込み、襲撃する魔族をことごとくねじ伏せてきた。それどころか、捕らえた魔族のひとりがクイーン・オブ・ギムレットのありかをほのめかした。だから開拓の道が示された遠征でもあった。

 空は厚い雲で覆われていたが、沈みゆく夕日が皆の帰る方向を指し示している。おのおのの飛行艇は気ままに空を滑ってゆく。

「ひゃっほぅ! これでオレたちは英雄だぜ!」

 ドンペルは酒を片手に飛行艇を宙返りさせる。

「おいドンペル、危ないからそのくらいにしろ。それに真の目的は秘石の入手だろ。ほんとうの冒険はこれからだ」
「わかってらぁ。でもこの面子だぜ? 歴代最強の精鋭部隊(クーケンス)にできないことなんてあるのかよ!」
「でも次回はエオリアだけは勘弁してくれ。セリアは文句を言わないが、寂しがっているに違いないからな」
「へっ、バルトは家族思いだな。おまえに会うまで風使いは風来坊、って思っていたんだが」

 ドンペルは呆れたような、けれど羨ましそうな顔でバルトの妻であるエオリアを見やる。

「まぁ、邂逅(かいこう)ってのは時の運だしな。――って、なんか空気が重くないか?」
「むっ!?」

 部隊の中に緊張感が走る。

 次の瞬間、重低音が響き渡り、目の前に漆黒の『城』が現れた。円盤の形をした、空を占拠する巨大な魔法兵器。

 魔法感知能力で捉えられなかったのは、兵器の中央に鎮座する巨大なギムレットが魔力を吸い込んでしまうからだ。

「なっ……! 浮遊要塞だとぉ!?」
「全員、全速力(フルスロットル)で任意の方向に退避!」

 バルトが叫び声をあげると、皆、反射的に飛行艇の方向を変えて加速しようとする。だが時すでに遅く、放たれた飛龍の軍勢に先回りされていた。魔導士が操る小飛龍の軍勢だ。

 ドンペルは夢幻の魔法を発動させ、飛行艇を霧の姿へと変化させていた。限られた時間だが、かろうじて敵の目を欺くことができる。その間に打開策を考えなければならない。

 しかし、この遭遇はあまりにも不可解に思えた。広大な大陸(コンタナ)で浮遊要塞に出くわすなど、天文学的な確率にすぎない。それに大陸遠征の経路は軍の一部しか知り得ない極秘情報だ。それだけではない。相手はあたかもこちらの存在を知り得ているかのように身を隠して接近していた。

 ――まさか、軍の何者かが浮遊要塞側に情報を流し、送り出した部隊を攻撃させているというのか?

 ドンペルの推測は心臓が凍りつくほど恐ろしいものだった。その発想は狂気ではないのかと自身を疑うほどに。

 すぐさま本島に魔法の暗号通信を送ろうとするが、まるで応答がない。浮遊要塞が干渉魔法により通信を遮断しているに違いなかった。

 飛龍が炎を吐き、一機、また一機と飛行艇が撃ち落とされてゆく。バルトとエオリアは風を操って龍を翻弄していたが、戦力が削がれるとふたりを囲む龍の数は増え、しだいに追い詰められていった。

「エオリア、おまえまで戦いに巻き込んでしまってすまなかった!」
「後悔しても仕方ないわ。でも……この状況、明らかに不自然だわ」
「そうだ――ドンペル、聞こえるか! もしも聞こえたら返事をしてくれ!」

 ドンペルはバルトの呼びかけに我を取り戻す。

「オレだ、ドンペルだ! これは恣意的な策略に違いない! 誰かが部隊の情報を流しているはずだ!」
「やはりおまえもそう思ったのか!」

 思い返すと大陸(コンタナ)を開拓しようと遠征した部隊が全滅することは少なくなかった。大陸に棲む魔族や魔獣にやられたのだと思っていたが、真相は違うのかもしれない。

 たしかに通信での情報が得られていないことも、浮遊要塞の仕業だと考えれば納得がいく。

「俺たちはもう逃れられなさそうだ。だが、おまえなら逃げられるはず。だから、この襲撃の事実を信頼できる仲間に伝えてくれ! そしてこの戦いの真実を突き止めてくれ!」
「ドンペル、私からもお願いがあるの。娘……セリアに伝えてほしい。たとえどんな境遇に身を置いていても、けっして挫けず強く生きて、と。私たちはいつでもあなたのそばにいるから、って!」
「おい、待て。オレだけを生きる懊悩(おうのう)の中に置き去りにする気かよ!? あらゆる辛苦を分け合うと誓った仲じゃねえのか!」
「だから託すんだよ! おまえが唯一無二の親友だから、アストラルの未来を託したいんだ!」
「ドンペル、私たちがあなたを未来に運ぶから!」

 その瞬間、バルトとエオリアの飛行艇が火炎を受けて燃え上がる。同時にドンペルの飛行艇にかけられた魔法が効力を失い姿を現した。

 飛龍の視線が最後の飛行艇に向けられる。バルトとエオリアは墜落してゆく刹那に最期の魔法を詠唱する。

 ――『『風の遊歩道(ウインド・ブロムナート)ォォォ!!』』

 飛龍の炎が降りかかる直前、飛行艇は風に掬われて強烈な加速をみせる。

 ――ウッ、ウオオオオオォォォ!! バルトッ! エオリアッ!!

 叫ぶ声は声にならず、けれど涙だけは無秩序に溢れ出してくる。加速の負荷に耐えられず、意識が遠のいてゆく。

 目を覚ました時、ドンペルの飛行艇は大陸にある浅瀬の波打ち際に漂着していた。中央都市のある巨大なアストラル本島が遠くの空に浮かんでいる。

 たったひとり残されたドンペルは、助けが来るまでの数週間を大陸の隅で過ごしていた。

己の無力さを痛感し、大切な仲間の死という、癒えることのない悲しみに打ちひしがれながら――。