ふたりが与えられた部屋は魔法学院の離れにある宿泊所の一角だった。魔法学院では魔法開発に関わるイベントが定期的に行われるため、来訪者用の宿泊施設を備えている。

 閉ざされた窓越しに夜空を眺めると、うっすらと光の膜が張っていた。魔法学院の建物の頂から放射状に張り巡らされている。ふたりは窓に並んで言葉を交わす。

「いよいよ明日ね。出題範囲はしっかり押さえたつもりだけど、自信ある?」
「それを今までセリアに頼りきりだった俺に聞くか。不安の大きさなら自信あるんだけどな」
「そう言わないの。アージェだって生粋(ギフテッド)じゃないの」
「まあな。だけど魔法を消すだけって最上級に芸のない魔法じゃないのか」
「物珍しさでは右に出る者はいないはずよ」

 リリコは先ほど、セリアは受かると思う、と言っていた。けれどアージェに勝算はあるのか皆目見当がつかない。辺境地のポンヌには受験のための情報があまりにも乏しかった。グレイマン島のような魔法通信が行き届いてない地域だからだ。

 ただ、ミレニアが入手した『受験対策書~魔法学院基礎編~(アストラル魔法評論社)』のおかげで試験の情報は得られていた。

 明日の試験内容は――まずは筆記試験。魔術語学、魔法世界史、調合合成学(薬草調合と魔法合成のいずれかから選択)である。そして面接による実技試験。特に試験官と一対一となる面接は得点の比率が高いとされている。

「要は試験官の評価次第か。――しっかしあのリリコって子、何の目的で俺らをここに呼び込んだんだろう」
「さぁ、どうしてだろうね。ただ――彼女の意思とは違うような気がするの」
「誰かの命令かもしれないってことか」
「たぶん、幼い外見だから警戒心を抱かないと思われたんじゃない」
「いやいや、宝石泥棒をしておいてそりゃないだろ。でも――」

 入り口の扉に目を向けると、ノブに魔法の糸が巻きついている。扉は封印され、ふたりは部屋に閉じ込められていた。

「探りに行くか? 封印なんてすぐに消せるし」
「ううん、やめておこうよ。あの子、危害は加えそうにないし、従わないと不合格にさせられそう」
「そうだな。それにあの子の目的、俺らだけで考えてもしょうがないもんな」

 アージェは気持ちを切り替えてその身をベッドに投げ込んだ。すぐさま、すやすやと寝息を立て始める。

 けれどセリアは落ち着かない気持ちでずっと夜空を眺めていた。それは試験への不安とは別のものだ。むしろ心の奥が期待と緊張で荒ぶっている。

 セリアの過去を知る者がいるということは――両親と関係のあった、とある人物に行き着く可能性が見えてきたということだ。

 それはセリアが魔法使いを目指す動機と深く、深く関わっていた。