【プロローグ】

 閑静な住宅街の一角にある煉瓦作りの小さな一軒家。魔法銃を構えた黒ローブの男たちが家に駆け寄り、古びた木製の扉に銃口を向ける。

「殺して構わん、絶対に『石』を探し出せ!」
「「了解!」」

 ズダダダダダダダッ!!

 破裂音とともに扉が粉々に砕け散る。男たちは躊躇なく屋内に駆け込んだ。

「奴は研究室に閉じこもっている。『石』もそこにあるはずだ」

 張り巡らせた伝令管のひとつから音を拾いあげたスパイク博士はすぐさま事態を把握した。

 一軒家に見せかけた研究所には迎え撃つ兵器もなければ身を隠すシェルターもない。

 奴ら(・・)の手は、ついにこの辺境地まで伸びてしまった。覚悟を決め、寄り添う少女に優し気な視線を向ける。

「いいかいメメル、今なら裏口から逃げられる。――何があっても生き延びるんだ」
「いやだ! 父ちゃんを置いてなんか行けない!」

 メメルは涙を浮かべて父であるスパイク博士にすがりつく。

「いいかい、おまえは世界の希望だ。こんなところで捕まってはいけないよ」

 博士はメメルを諭して裏口を指さす。けれどメメルは博士にしがみついたままだ。

「父ちゃんは悪いことなんかしてないもん!」

 男たちの駆け足の音が扉の前まで近づき、止まると同時に錠前がはじけ飛んだ。研究室の扉が開き、男たちが姿を見せる。

 メメルの目には彼らが地獄の使者のように見えた。男たちを睨み返すが、心臓は恐怖で凍りつきそうだ。

「帝からの命令だ。一度だけ言う。『石』をよこせ。ここにあることは突き止めているからな」
「やはりそうだったか。だが――渡すわけにはいかない」
「そうか、ならば話が早い」

 男たちの銃口は方位磁針のようにスパイク博士に向かって引き寄せられる。彼らの冷たい表情を目の当たりにした博士はすぐさま叫んだ。

「メメル、俺から離れろ!」
「父ちゃ……!」

 博士がメメルを突き飛ばした瞬間――銃口から放たれた魔性の雨が容赦なく博士の身体に降り注いだ。