桜木家には3人の子供がいた。
父はカメラ喫茶月宮の常連だった。
娘もカメラを見るためについて行っていた。
そこに、少女の憧れの人物がいた。
出会いは6年前、優花が7歳の頃まで遡る。

最初に目に留まったのは、やはりものすごい量のカメラと、山のような写真集だった。
見ているだけで幸せだが、やはりその量には目を見張った。
しかしもっと目を見張ったのは、正確かつ迅速にカメラに修理を施す店主だった。
父とはニコニコ喋っているが、手は止まることを知らないようだ。
父もこの上なく楽しんでいた。
優花にとっては全く意味のわからない会話だった。
それでも、優花と写真の話をするときのように、ありおはそれ以上に、楽しそうだった。
優花は彼に、尊敬を向けるようになった。

ある時、少女が店の奥から出てきた。
どうやら店主の一人娘なのだそうだ。
優花と同年代の、恐らく人懐こい、優花とは真逆で活発でしかし知的な印象の少女だ。
少女は、自信が持てずに虚勢で笑顔を貼り付ける優花にとって、何度も夢に見た存在だった。
父の話によると、優花と同い年らしい。
同い年なのに、店の手伝いをし、ハキハキと喋る、素直な子。
私と違って根暗な表情を見せたりしない明るい子。
頼まれたことを嫌がりもせず、純粋にカメラを売る仕事を好いているようだった。
子供だからとなめた態度を取る客も、平等に接するプロ意識の高い同い年。
第一印象からして私の憧れだった。

カメラを見て、名前を覚えて、そのカメラで撮った写真を見て、父の用事が済んだら帰る。
最初はそのためだけにここについてきていた。
いつだっただろう、あの子がどんな子なのか知りたいという目的も含まれる様になったのは。

私にとって、あの少女は理想の人物で、憧れの対象だった。