一般的に、そんな容姿の者は、男女を問わず人見知りなイメージが有る。
そもそも魔導士は神経質で引っ込み思案な者の方が多く、コミュ力に長けているタイプは少ない。
だが、アルバーラはそんなクロスの予想に反して、不思議なほど自信に溢れて明るい性格をしていた。
快活に笑い、楽しげに喋り、大概のものが気づけば彼女の話に引き込まれている。
そんな巧みな話術で他人の心をつかみ、場の流れを自分の有利に運ぶ才能に長けたアルバーラは、無制限に受け入れた弟子を養えるだけの金を、スポンサーから易々と引き出していた。
無数の弟子の中から、扱いやすく才気に溢れた者を選び、手間の掛かる文献の検証や裏付け、資料集めやその解析などをやらせる。
更に、それらをセオロに精査させ、古代魔法のお披露目のような派手な表舞台には自分が立つのが、彼女の常套手段なのだ。
それが禁忌の術となれば、その全てを解析したのはセオロに決まっている。
それが "解明が進まない" とは、どういうことだろうか? と引っかかったのだ。
「キミほどの知識で不満を言われちゃ、たまったもんじゃないな…」
「でも、核化は解析出来ましたけど、未だに神耶族の能力値がどうすれば付与されるのか、僕には解明出来てませんし…」
「ああ、なるほど…」
屋敷の扉の前に立ったセオロは、そこでクロスに振り返る。
「大丈夫ですか?」
「えっ、なにが?」
「此処、気持ち悪くないですか?」
セオロは、いかにも薄気味悪そうに屋敷を見ている。
「だって、キミの師匠の研究室だよね?」
「そうですけど。でも、師匠が健在だった頃から、僕はこの屋敷は苦手なんです」
「だってそんな禁忌の術の研究してたトコなら、むしろキミが一番出入りしてたんじゃないの?」
「いいえ、僕の研究結果を師匠が一人で検証してたんです。だから僕は、あまり此処には来てません。師匠は中でいろんな生き物も飼っていて、鳴き声とか蠢く音とか、ホント気持ち悪かったんです。こうしてると、あの呻きがまた聴こえてくる気がする」
小心者のクロスには、話を聞くだけで怖気がしてくる。
しかも改めて屋敷を見ると、どうやらアルバーラが失踪してからろくに手入れもしていない様子で、垂れ込める廃墟感に背筋がゾワゾワした。
「でも、入らないワケにはいかないでしょ…」
「ですよね」
諦め顔で両開きの扉のノブに手を掛けたセオロは、すぐに顔をしかめた。
「開かない」
「鍵が掛かってるんじゃないの?」
「いえ、こんな場所ですから、師匠は鍵を付けてません」
「あんまり放ったらかしてたから、錆びて開かないんじゃないの?」
クロスも試して、両足を踏ん張り、顔を真っ赤にして、あらん限りの力を出して引っ張ってみたが、扉はビクともしなかった。
「術でも掛けてあるのかな。でもそうだったら、僕には開けられませんし、クロスさんにも無理ですよね」
肩で息を切らせながら、クロスはセオロの顔を見て、それから屋敷を振り仰いだ。
「ねえこれ、ホントに引く扉?」
「はい?」
セオロが首を傾げているので、クロスは改めてドアノブを掴み、押した。
軋んだ音を立てつつも、扉は簡単に内側に開いた。
「…マジ?」
「やあ驚いた、クロスさんは大したものですねえ」
他人事みたいに言うセオロを、クロスはつい睨んでしまった。
するとセオロは、ペコリと頭を下げる。
「すみません。なにしろ僕は、此処には滅多に来ませんでしたから」
そう言われてしまったら、バカバカしい無駄働きをさせられたことも、それ以上怒る訳にもいかない。
クロスは埃っぽい室内に踏み込んだ。