「その様子だと、俺と共闘も…したくないよね?」
確認するように、クロスは問うた。
「そうでもないです。僕は今日、アンリーが神耶族に手を出すのを友人として止めに来たんだけど、アンリーが僕の言葉にすんなり耳を傾けてくれるとは思えないし。御存知の通り、アンリーと戦いになったら、僕に勝ち目はありません。そう考えるとクロスさんと共闘するほうが、ずっと無難で割がいい」
「へえ、意外な返事で驚いた。でもキミがそう言うなら俺は喜んで同行するよ。こっちも単独よりは、ずっと無難で割がいい」
「意見が揃いましたね。では行きましょうか」
二人は門扉の奥へと、歩みを進めた。
塀に囲まれた内側に入る時に、クロスは少し警戒していたのだが、これといって空気が変わった気配もなく、すんなりと進めた。
むしろ、すんなりと進めたことが意外で、クロスは先を歩いているセオロに向かって問いかける。
「ここって、アルバーラと関係のある場所なんだよね?」
「表向きは師匠のプライベートハウスなんですが、本当は研究室です、組合に無許可の」
「なんで無許可? アルバーラなら、組合の許可くらい、サクッと取得出来たでしょ?」
「クロスさんなら、薄々ご存知かと思いますが。ここは師匠の、禁忌の術を試すための場所なので…」
「ああ、なるほど…」
クロスはセオロに、いかにもな驚きと納得の感情を交えた答えを返した。
実を言えば、屋敷の周りの植物を見た時に、それはなんとなく想像がついていた。
だが、自分もまた禁忌の術を紐解いていて、それらの植物の使用途が何であるかを知っている…などと、種明かしをしても良いことはなにもない。
「師匠はそのつもりで、此処にその準備をしていたんです。でも僕には古代史や俗説なんかの知識がクロスさんほどありませんから、禁忌の術の解明なんてなかなか進まなくて、師匠はいつも御不満でしたよ」
そう言って苦笑したセオロに、クロスはまたしても違和感を覚えた。
少なくともアルバーラは、タクトを核化することに成功している。
一方で、アルバーラは研究の大半をセオロに丸投げにしていて、自分は研究結果を考察し、新たな指示を与えるだけだった。
アルバーラという女性は、魔導士らしく背が低い以上に、猫背で肥満した体型のほうに目がいく女性だった。
タクトが "毒まんじゅう" と呼ぶのは、彼女がそういうシルエットだからだろう。
ウェーブの掛かった黒髪を長く伸ばし、前髪は顔の半分以上を隠している。
女性のファッションなどに、さほどの興味も持っていないクロスから見ても、それは醜女を隠すためなのか? と思うほどだった。