当たり前だが、より多くの弟子を手元に置けば、それだけ金が掛かる。
よってどこの一門も弟子の人数を制限していたが、アルバーラは全く無制限に弟子を受け入れていた。
もちろん彼女も、クロスと同じように指導力のある弟子に、後から来た弟子達の指導を任せていたが、彼女はクロスと違ってその者の魔力だけで評価をくださなかった。
アルバーラ一門のランク付けは、正に実力主義。
例えば、カービンは特殊技能を磨くことで四天王の一角を与えられ、セオロは古代文字の造詣を評価され、彼は一門の "頭脳" と呼ばれていた。
「それで、その後も研究を続けてるの?」
「いえ。僕は知識があっても、考察が甘いので。むしろあなたが組合に残ってくれていたら、師事したかったぐらいです」
「君も随分、お世辞が上手くなったもんだねェ」
クロスは、乾いた笑いを返した。
アルバーラは、自身の一門を立ち上げた時に "魔力持ちは持たざる者よりも優れている" とのスローガンを掲げた。
それは、持たざる者に散々迫害された魔力持ちにとって、ひどく魅力的な言葉となった。
弟子を無制限に受け入れ、更に魔力持ちの地位向上を謳うアルバーラは、魔導組合の中で一躍脚光を浴びた。
セオロは、アルバーラの一門の中でも師匠を盲信していた一人だ。
魔導士を嫌う者たちによって、魔導士であった両親を殺され、自身も片足に後遺症が残るような傷を負った過去を持つ。
そんなセオロが、アルバーラと対立関係となり、更に融和派の旗頭に立っていたクロスに、師事したがるとは到底思えない。
「お世辞なんかじゃありません。クロスさんは師匠と同じ研究テーマをお持ちでしたから、僕の語学が役に立つと思っていたんです」
「ま、そういうことにしておこうか」
実際、セオロの古代語の造詣は深い。
一方で、クロスよりもずっと年若く、クロスよりもずっとそのジャンルに関わり始めた年数が少ないはずのセオロが、そこまでの勢いで学んでいる様子は、どれほどの熱烈な信奉心をアルバーラに捧げているのだろう? と少々寒気を覚えるほどだ。
「ところでクロスさん、こんなところに来たってことは、アンリーがルミギリスから横取りした神耶族の子を、探しに来たんですよね?」
「それを、どうしてキミが知ってるの?」
「アンリーに呼び出されたんですよ」
「なるほど。じゃあキミは、アンリーに協力するために来たの?」
「気が進まないですね。僕の研究はまだ途中だけど、調べれば調べるほど、神耶族を扱いきれる自信は無くなるばかりだし」
答えたセオロに、クロスは微かな違和感を覚えた。
セオロは地味な男だが、その実、かなりの負けん気が強い。
表立って言い張るようなことはしなかったが、師匠への熱烈なる信奉心と、その負けん気によって、クロスの持つ古代語や古文書の造詣に劣らない知識を身に着けてきた男なのだ。
この発言が、単に目上のクロスを牽制するための謙虚さを装ったものなのか、それとも神耶族を前に臆した弱音なのか、クロスは判断を迷った。