「お久しぶりですね、クロスさん」
「うん、久しぶり」
セオロは、クロスが口を利いたことがある、数少ないアルバーラ一門の弟子の一人だった。
魔導士…特に己の研究に熱を入れている者にとって、弟子を取るのは面倒事以外のなにものでもない。
だが、独立した魔導士は、弟子を取ることを魔導組合によって義務化されていた。
当時のクロスは、他の魔導士がそうしているのと同様に、指導上手な者にそちらを任せて、自分はもっぱら研究にばかり没頭していた。
クロスの研究の対象は、古文書とそこに記載されているヒトならざる者だった。
同じ研究をしていたアルバーラは、しかし資料集めのような雑用は、基本的に弟子に任せてしまうタイプで、研究に関しては全てを己で見極める主義のクロスと顔を合わせることはなかった。
その代わり、古代文字に造詣の深かったセオロとは、度々会う機会があった。
「でも、ココでキミに会うとは思わなかったな」
「なぜですか?」
「そりゃ…、キミは地位や後継者争いに参加するより、自分の研究が大事なタイプだと思ってたから、失踪した師匠の元にわざわざ残るとは思わなかったからさ」
「僕はご覧のとおり、地味な男ですから。一門を立ち上げられるほどの資金は集められませんし、冒険者になって世間にもまれるほどの気概もありませんから」
ちょっと卑屈に、セオロは笑う。
だがそれは、魔導士となった者が抱える、割とありがちな悩みでもあった。
魔導組合が徒弟制度を義務化したのは、魔力持ちが魔力をコントロール出来ずに起こす魔力暴走によって、被害が出るのを防ぐためだ。
魔力暴走は、魔力持ちが大きく動揺しただけで起こる。
よって、魔力持ちであることが判明した時点で、その者の身柄は魔導組合預かりとなる。
適当な魔導士の元で修行をし、魔力を完全にコントロール出来るようになると、一人前として認められ、自身も魔導士を名乗れるようになるのだが。
魔導組合から発行される身分証を受け取る際に、必ず「自分は人間社会に貢献出来る魔力持ちである」と宣誓しなければならない。
故に、魔導士と成ったからには、その才能…つまり魔力を使って社会に貢献することを "強制" されるのだ。
だが、人間の社会で魔導士の肩身は狭い。
それは魔力持ちが魔力暴走を起こす危険や、理解の出来ない魔法に対する忌避感から、避けられてるためだ。
そうなると、一端の魔導士と成ったからといって、付ける職は限られる。
最も理想とされるのは、自身の一門を持って、自他ともに認める "一人前" となることだろう。
だがこれには、多額の資金が必要となる。
徒弟制度の義務を負うのもこの選択肢で、弟子の指導はもちろん、彼らの衣食住も保証しなければならない。
スポンサーを見つけるために自身を売り込みたい者や、研究などにさほどの興味も無く、他人の面倒など見たくないと考える者は、冒険者となる。
ただし冒険者は、非常に危険度の高い仕事なども請け負わねばならないために、自身の命を危険に晒す可能性がある。
命の危険を冒さず、更に徒弟制度を免除されるには、師匠の元に残るしかない。