『とにかく今はこれ以上、此処で貴様のご先祖談義をしている時間は無い』
「そうだ。クロスさんの後を追おう」
『ああ、ちょっと待て』
「なんだ?」
『貴様、合切袋の中に水筒を持っておらんか?』
「なんだ? 姿が視えるようになったら喉が渇いたのか?」
『持っておるのか、おらんのかっ?!』
「なんだ、大きな声を出して…。持ってるが、それがどうした?」
『中身を捨てて、そこなストーンサークルの水に汲みかえよ。霊験あらたか、貴様の危機を救ってくれたのだから、またなんかあるやもしれん』
「今度は怪しい商人みたいなことを言い出した…」
『さっさとせい! 貴様がその水を汲んだら、クロスのあとを追う』
「おまえには、目指す方向が分かるのか?」
マハトは言われた通りに、自分の持っている水筒の中身を砂地に捨ててから、湧き出ている水をたっぷりと汲んだ。
『クロスの使った魔力の痕跡がある。幸いにして儂の魔力も使えるので造作もないな』
「行くのはいいが、その前に訊きたい」
『なんじゃ?』
「俺がクロスさんに預けた剣はどこだ?」
『むっ!』
言われてみれば、人質交換の時にマハトはタクト諸共、自分の大剣をクロスに渡してしまっている。
「なにか得物を調達しないと、丸腰じゃ、敵と遭遇しても全力で戦えない」
『ああ忌々しい、時間が惜しいこの時に! ……うーむむ、致し方ない。これは、破格の大盤振る舞いと知っておけっ!』
不意にマハトが手にしていた短剣が、ズシリと重さを増した。
『心して粗末に扱うなよ!』
マハトの手元の短剣が、長剣へと変化している。
短剣だった時も華美な装飾が施されていたが、長剣になり装飾できる面積が増えたためか、更に凝って豪華な…むしろ "綺羅綺羅" とでも表現した方が良さそうな見栄えとなっていた。
「サイズが大きくなったら、ますます派手派手しくなったな」
内心で、人間に扱われるなんて…と思いつつ、少しばかり "相手がマハトならそれもアリか" などと考えていたタクトは、その言葉に少々カチンときた。
『なんとっ! 刃の切れ味も刀剣のバランスも申し分無く、かつ芸術的な鑑賞にも耐えうる造りの最高傑作ぞ!』
「いや、グリップにこんなに装飾があっては、握りにくいだろう?」
『美的センスに欠けるサウルスめがっ! 黙ってありがたく使え! それからくどいようだが、今後絶対に儂を手放してはならんぞ!』
「そうだな。俺もそれには同意する」
二人はストーンサークルを離れ、怪鳥が飛び去った方角に向かった。