『ふははっ! そんな上等な話ではないわ。例え "アタリ" を引いたとて、平身低頭して頼み込むのが関の山。幻獣族のような言葉も通じない相手だった場合は、八つ裂きにされるじゃろ』
「命掛けじゃないか」
『言ったであろう。言葉の通じない相手を呼び出すような巫は無能と。だがそうそう巫が死んでは示しがつかぬからな。巫になれるのは特殊耐性持ちに限られており、必死になって磨きを掛けるのじゃ』
そこまでは、少々怒ったり呆れたりはしていたが、普通に話をしていたマハトが、いきなり顔を真赤にして大声を上げた。
「おっ、おまえは! 急になんてことを言い出すんだ!」
『なんじゃ?』
「そんな…、いきなり…、じょ…女性用の下着の話を始めるなんてっ!」
言われている意味が判らず、タクトは数秒考えてしまった。
『馬鹿者! 女の下着の話などしておらぬわ! 特殊耐性は特殊技能に決まっておろ!』
「特殊技能…? 生まれつき持っているっていう、アレか?」
『そうじゃ』
「ああ、なんだ、そうか…。俺は特殊技能持ちじゃないぞ」
『さてさて、どうだろうかのう? 赤子の頃から素養ありと見られておったからこそ、額に印を施されているのだろう?』
「そんな話は聞いたこともないし、そもそも先刻までは痣だった!」
『それは聖水を浴びて "洗礼" されたからであろ。いうなれば覚醒した…とでも言うことか?』
「だから、そんな素養は俺にはない」
『ふむ、だが考えてみれば、あのヒダリマキ女は自信満々に貴様は死んだと断言しておったが、そうしてピンピンしているではないか。思うに、ジェラートの術の掛かりが悪かったのも、その所為であろ』
「それじゃあまるで、俺が術を跳ね返したみたいじゃないか」
『特殊耐性は、普通なら耐えられずに死に至る術に、耐えきれるようになる特殊技能じゃ』
「じゃあ、俺がここまで飛んできたのは、なぜだ?」
『思い返すに、あれはもっと外から作用した術じゃな。遺跡に何者かの思念が残っていた…と考えるべきか』
「思念? 誰の?」
『さあな』
タクトは肩を竦めた。
「見てきたように言うかと思えば、今度はひどくあやふやだな」
『正直、人間の造ったこの程度の遺物にここまでの念を残せるとなると、儂に匹敵するような魔力を持っていると思うが。多分、なんとかタタンの一族を愛でておった者がおったんじゃろ。経緯は判らぬが、なんらかの理由で此処を離れねばならなくなり、思念を残していった…と考えるのが順当じゃな』
「その思念で、どうして俺が飛んだんだ?」
『儂が核化されておらなんだら、術を詳細に精査出来るが。そうであったら、今ここで貴様なぞに助力を求めたりせず、自力で全てを解決しておるわ!』
「ああ、そう言われればそうだったな。すまん」
確かにそこは、タクトの言い分のほうが筋が通るので、マハトは素直に謝った。