互いをかばい合うように抱き合っていたルミギリスとカービンは、地面の鳴動が止み、辺りが静かになったところで目を開ける。
「ビンちゃん! 生きてる?!」
「ルミ~、ドジっちゃってゴメン~。あんな真っ暗の中で追っかけてくる奴がいるなんて、思わなくってぇ~」
「ビンちゃんが無事だったから、それはもうイイよ~」
「アタシがもっと、大きなルフ鳥を捕まえられてたら、一緒に逃げられたんだけど…」
「なに言ってんのさ! あれでさえ、維持するのが難しくて放っちゃったんだよ? あれより大きかったら、仮契約も出来なかったってば!」
「でもぉ、ルミーなら時間掛ければ…」
「あれすら、結局絶対服従させられなかったんだもん。たられば言っても仕方ないよぅ」
「でもぉ〜」
「ビンちゃんが無事だったことが、一番だよぉ〜。ヘタレたクロスは逃がしたけど、戦士にはボクのスペシャル雷撃を浴びせて、ビンちゃんのカタキを取ったよ! どんなデッカイ奴だって、イチコロさっ!」
伏して動かぬマハトを横目で見て、ルミギリスはフフンと鼻先で笑った。
「次はにっくきアンリーをやってやるっ! ボクらのスイートキャンディーを横取りしやがって! カッコツケばっかのスカスカ野郎!」
カービンの縄を解きながら、ルミギリスが苛立たしげに吐き捨てた。
「神耶族を獲ったのは、アンリーの鳥なの?」
「アイツがピッピちゃんとか呼んでる、トンスラハゲ鳥だよ! いつからボク達の秘密基地の地下に、サンドウォームを潜ませてたんだろ。ホントにヤなヤツ! あのデッカイ芋虫に落とし穴を掘らせて、こっちがビックリしてる間に、上からトンスラハゲがスイートキャンディーを掻っ攫ってったんだ! ドロボー使い魔! 焼き鳥にして食ってやる!」
「ピーちゃんは焼き鳥だけど、サンドウォームは焼き芋なんじゃない?」
「あっはっは、ビンちゃん、さっすが~!」
縄を解き終えると、ルミギリスはカービンの服に付いた砂も綺麗に払い落としてやった。
「じゃ、さっさとあとを追っかけよ! どうせアンリーの行き先は、ババアが研究に使ってた屋敷に決まってる! 神耶族を取り込む方法は、アンリーだってまだ解ってないンだからね! それじゃあビンちゃん、こっから脱出しよう!」
「任せて、ルミー!」
カービンは自分の服のポケットに手を入れると、一粒の種子を取り出した。
クロスが疑問に思った程度に、カービンは魔導士としての実力はさほど高くない。
彼女の持つ魔力では、使い魔を持つのは非常に難しいレベルだ。
だがカービンには、植物に感応出来る特殊技能があった。
特殊技能とは、生まれ持った能力である。
あとから修行などで身に付けることは不可能であり、しかも魔力の有無も関係ない。
カービンの特殊技能は、触れた植物の成長を、ある程度操ることが出来るものだ。
子供の頃に魔力持ちとして迫害を受け、魔導士としては大したことがないと言われた彼女は、自身の特殊技能を徹底的に鍛え上げた。
ただ少しだけ成長を促し、早くに芽を出させる…程度の特殊技能を、魔力を込めて自在に操れるようになるまで研鑽したのだ。
門戸を大きく開いて、魔力の低い者でも構わずに迎え入れてくれるアルバーラ一門に加わった時に、カービンは心の友とも言えるルミギリスと出会った。
以後、一門の中で目覚ましい出世をするルミギリスに尽くしてきたが、カービンの努力は師匠の目にも留まり、弟子の序列の映えある四番を与えられたのだ。
砂の上に落ちた種子は、カービンの術で蛇のようにうねりながら、穴の外へと繋がるツタを這わせた。
二人が伸びたツタの一部に手を掛けると、植物はスルスルと二人の体を保護して、穴の外にまで運び出す。
そしてカービンに指示された仕事をこなし終えたところで、ツタはあっという間に枯れて、砂の上に散っていった。