「クロスく〜ん。大人なんだからさぁ、わかるでしょ? キミだけ(・・)、なんだよねぇ〜。商隊と護衛隊、両方からクレームきてるヒトはさぁ…」

 商隊のリーダーを務めている小太りの男は、じろりと視線をクロスに向け、これみよがしのため息を()き、実に面倒くさそうな顔をした。
 これは要するに、解雇通知だ。
 そしてクロスは、数日前にようやくの思いでありついた護衛の仕事を、あっさりとお払い箱にされた。

「ああ、またか…」

 もう、ため息も出ない。
 いつもの(・・・・)ことだが、自己肯定感がダダ下がる。
 魔導士(セイドラー)としての技量は、(だれ)にも引けは取らないし、それに関しては絶対の自信がある。
 但し、それ以外のことに関しては、(だれ)にも引けを取ってばかりだ。

「どうすっかな…」

 クロスは、一人で森の中の切り株に座り込んでいた。
 商隊の護衛の仕事は、冒険者組合(アドベンチャーギルド)の斡旋だが、解雇の権限は商隊にある。
 出先でクビを言い渡されるのは、クロスに取っては "いつものこと" であった。
 魔力(ガルドル)を持たない、いわゆる持たざる者(ノーマル)達は、魔導士(セイドラー)を嫌う。
 もっとも彼らにしてみれば、 "魔法(ガルズ)" などという、得体のしれないモノを使う魔導士(セイドラー)は、薄気味悪い嫌悪の対象なのだから、仕方がないのかもしれないが。
 仕事の難易度に関係なく、基本は "彼らをやり過ごす" ことが出来れば、仕事の90%は成功したと言えるだろう。
 雇用主が魔導士(セイドラー)を嫌悪していれば、くだらぬ口喧嘩程度のことがきっかけでも、これこのようにクビになるのだから。

 そうして、今までにクビにされた履歴を細かく思い返して、余計に気分を落ち込ませて歩いていたら、いつのまにか方向を見失って、森の中にいた。
 無闇に歩き回っても良いことはないだろう…と考え、とりあえず動くのをやめ、目についた切り株に座っている。

「こういう場所って、レイスみたいな、実体(じったい)のない変なものが出やすいんだよなぁ…」

 そう呟いてから、思わずブルブルと(こうべ)を振る。

「いかん、いかん! 弱気こそがヤツらを呼ぶんだ!」

 (おのれ)を鼓舞しようとしたクロスの耳に、ヒトの声が聞こえた。
 こんな場所で? と言う疑問と、考えた途端に "出た" のか? と言う恐怖が同時に脳裏を掠めたが、それらを払拭する生気が漲った喊声(かんせい)が、再び聞こえる。
 クロスは、声のする(ほう)へ急いだ。