壁面にあるランプが室内を柔らかな光で満たしているのだが、内側で炎を燃やしているにしてはチラつきが無い。
そもそもあんな小さなランプの灯りが、どうやってこんなに明るい炎を燃やすことができるのだろうと不思議になって、ファルサーが壁に歩み寄った時だった。
「私に何か用か?」
それは、男性にしては甲高く、女性にしては低音の、聞いたことの無い声だった。
しかも今の今まで、背後に全くなんの気配も無かったために、ファルサーは驚いて慌てて振り返ったのだった。
戦士たる者、どんな時にも背後の警戒を怠ってはならない…と教えられていたファルサーは、相手の気配に全く気付いていなかったことに狼狽えていた。
だが声の主を見た途端、そんな動揺など吹っ飛んでしまう。
ファルサーの想像していたような "ヒゲだらけの老人" は、そこにはおらず、小柄で童顔な人物が立っている。
しかもその人物は、上から下まで真っ白だった。
上司の監督官や同僚の中には、全能の神を信仰する者もいて、彼等が語る "神の使い" なる者がもし目の前に顕現したら、こんな姿かもしれない…と思うほどに。
やや子供っぽい顔をしていると感じたが、良く見ればそれほど幼くもない。
整った美貌をしているが、なんとも冷たい印象の無愛想な顔でこちらを見ている。
髪色も肌色もアルビノのように白いが、アルビノならば特徴的な赤いはずの瞳が、薄氷のような淡いブルーで、むしろ瞳までも色素が抜けてしまっているのでは無いかと思われた。
背丈は一般的な女性ぐらいしかないが、女性と思うには決め手が無く、スタンドカラーの服を着ているので、喉元も見えない。
髪型はベリーショートで、女性と言えば髪を伸ばすものと思っているファルサーの感覚からしたら奇妙だったし、そもそもスラックスを履く女性なんて、今まで見たことも無い。
「用件は?」
冷酷さすら感じる、件の透けた薄氷のような淡いブルーの瞳に、決して好意的とは言いかねる感情を乗せて睨みつけられ、ファルサーはハッとなった。
「…湖の真ん中にある島に渡してもらいたいんだが…」
「何のために?」
「ドラゴン討伐だ」
ファルサーの答えに、それまで殆どなんの表情もなかった相手の顔に、微かながら呆れたような感情が浮かぶ。
「物好きだな」
「僕がしたくて、する訳じゃない。王命だ」
「どちらにしろ物好きだ」
相手はファルサーに背を向けると、部屋の奥にあるテーブルへと移動した。
しかしその動きには全くと言っていいほど音が無く、スラックスの裾が動く衣擦れの音すら聞こえない。
移動はキビキビしているのに、まるで幽鬼のような者がスウッと移動しているような錯覚を覚える。
「渡してもらえないのか?」
相手はそこにあった椅子に腰を降ろすと、筋張っているのに繊細な人差し指でテーブルの表面をトントンと叩く。
それはひどく高飛車な、将軍が兵に無言の圧で命令でもするような調子だ。
そもそもあんな小さなランプの灯りが、どうやってこんなに明るい炎を燃やすことができるのだろうと不思議になって、ファルサーが壁に歩み寄った時だった。
「私に何か用か?」
それは、男性にしては甲高く、女性にしては低音の、聞いたことの無い声だった。
しかも今の今まで、背後に全くなんの気配も無かったために、ファルサーは驚いて慌てて振り返ったのだった。
戦士たる者、どんな時にも背後の警戒を怠ってはならない…と教えられていたファルサーは、相手の気配に全く気付いていなかったことに狼狽えていた。
だが声の主を見た途端、そんな動揺など吹っ飛んでしまう。
ファルサーの想像していたような "ヒゲだらけの老人" は、そこにはおらず、小柄で童顔な人物が立っている。
しかもその人物は、上から下まで真っ白だった。
上司の監督官や同僚の中には、全能の神を信仰する者もいて、彼等が語る "神の使い" なる者がもし目の前に顕現したら、こんな姿かもしれない…と思うほどに。
やや子供っぽい顔をしていると感じたが、良く見ればそれほど幼くもない。
整った美貌をしているが、なんとも冷たい印象の無愛想な顔でこちらを見ている。
髪色も肌色もアルビノのように白いが、アルビノならば特徴的な赤いはずの瞳が、薄氷のような淡いブルーで、むしろ瞳までも色素が抜けてしまっているのでは無いかと思われた。
背丈は一般的な女性ぐらいしかないが、女性と思うには決め手が無く、スタンドカラーの服を着ているので、喉元も見えない。
髪型はベリーショートで、女性と言えば髪を伸ばすものと思っているファルサーの感覚からしたら奇妙だったし、そもそもスラックスを履く女性なんて、今まで見たことも無い。
「用件は?」
冷酷さすら感じる、件の透けた薄氷のような淡いブルーの瞳に、決して好意的とは言いかねる感情を乗せて睨みつけられ、ファルサーはハッとなった。
「…湖の真ん中にある島に渡してもらいたいんだが…」
「何のために?」
「ドラゴン討伐だ」
ファルサーの答えに、それまで殆どなんの表情もなかった相手の顔に、微かながら呆れたような感情が浮かぶ。
「物好きだな」
「僕がしたくて、する訳じゃない。王命だ」
「どちらにしろ物好きだ」
相手はファルサーに背を向けると、部屋の奥にあるテーブルへと移動した。
しかしその動きには全くと言っていいほど音が無く、スラックスの裾が動く衣擦れの音すら聞こえない。
移動はキビキビしているのに、まるで幽鬼のような者がスウッと移動しているような錯覚を覚える。
「渡してもらえないのか?」
相手はそこにあった椅子に腰を降ろすと、筋張っているのに繊細な人差し指でテーブルの表面をトントンと叩く。
それはひどく高飛車な、将軍が兵に無言の圧で命令でもするような調子だ。