黎音(れお)、まだー?」

「ん、もうちょっと!」

廊下に面した窓からひょっこりと顔をのぞかせているのは、俺の幼馴染の星凪(せな)

「今日スタバの新作出るとかはしゃいでたの、どこの誰だよ」

「や、違くてさぁ!!」

「小テストが赤点で居残りとか聞いたことないよ」

「ほら弓月(ゆみづき)ー、せっかく戸塚(とづか)が待っててくれてるんだから早く終わらせろー」

「う゛~、最後の問題わかんないんだもん!!岩っちの鬼畜ー!」

俺だって早くこんなの終わらせて帰りたいよ!
俺は早くスタバの新作のイチゴのやつ飲みに行きたいのに!!

「こら、俺以外の先生に向かって鬼畜とか言うなよ?」

「岩っち呼びにまず怒りなよ、岩本せんせー」

「せーなー、わかんないー!岩っちとしゃべってないで教えてー!!」

「はぁ、ったくしゃあないなぁ。一回しか言わないからね」

「やった!星凪マジで神!!」

星凪が俺の隣の席に腰掛けた。ふわりと星凪の制服から柔軟剤の香りが漂ってくる。
イチゴみたいに甘くて、とろけそうな匂い。

星凪の横顔を見つめる。
きれいな二重に、焼けた肌。鼻筋もシュッと通っていて、女子からの人気も絶大だ。

「黎音、聞いてる?」

「聞いてるよー」

「じゃあもう解けるね?」

「うん、できる」

星凪が隣にいて、俺が勉強を教えてもらっている。

星凪は俺よりはるかに秀才だ。
この高校に通える切符を手に入れられたのは星凪のおかげ。

俺が星凪と一緒の高校に行きたかったから、わざわざ毎日つきっきりで教えてくれた。

秀才の星凪は特進コースのA組、俺はC組。
クラスが離れて初めて、俺が星凪と一緒にいたかった理由が分かった。

「できんじゃん。」

「合ってる!?」

「うん、大正解。よし、早くスタバ行くぞ」

「やったあ!じゃ、岩っちさよなら!!」

「おう、もう小テストごときで赤点とるなよー」


「黎音、なに笑ってんの?」

「え?なんでもないよ」


俺は、星凪が好き。


でも、俺らはどっちも男。

ばれてこの関係が崩れたら嫌だから。

「スタバで数学教えてやんよ」

「マジ!?ありがと!」

俺は、今日も”好き”があふれないように、心の中に閉じ込める。