二人で他愛もない話をしていると家の前に着く。
私は樹の自転車から降りた。
「菜穂、はい」
「ありがとう」
自転車のかごに入っていたサボテンの箱を受けとると、樹が頷いた。
「また明日な」
樹は自転車を押して私の隣にある家に入っていった。
私は二軒の似た二階建ての一軒家を見つめた。
赤色の屋根が私、青色の屋根が樹の家。
樹の姿が見えなくなったので、私も家の門を開けて中に入った。
「ただいま」
靴を脱いで一階のリビングに行くと、私のお母さん、澤田真理子《さわだまりこ》がソファーで寝ていた。
近くには畳んだ洗濯物がある。
可愛い寝顔にくすりとして、私はブランケットをお母さんにかけ、足音を立てずに二階の部屋に向かう。
部屋に入り、ポールハンガーに鞄をかけイスに座り勉強机に頬杖をついて、目の前にあるサボテンを眺めた。
「……初めて育てる植物がサボテンとは思いもしなかったな」
"可愛いと思うよ、そのサボテンは"
樹の言葉が私の中で優しく響く。
「……ありがとう、樹」
呟いたら胸が少し苦しくなり、サボテンから目を離す。
分かっていた。樹の遠回しな言い方も気づかないふりをした。
樹はきっと私を大切に思ってくれている。
けど樹がどれだけ私を思ってくれようとも、私がどれだけ樹を思おうとも、絶対にこの恋は成功させてはいけない。
幼い頃からずっと、思っていた。
それでも思いが溢れそうになると私は目を閉じ、樹歌っていた何かのCMソングの出だしを口ずさんだ。
『遠くまで行ける靴を履いて
あの流れ星を見に行こう』
口ずさんだら気持ちがおさまって、ゆっくりと目を開けた。
「この曲、本当にタイトル何だろう?」
タイトルは高校生になった今でも、携帯で歌詞を入力して検索をかけたって出てこない。
「樹も知らないって言うし……」
タイトルを知りたい気持ちはある。でも、樹の声を思い出せたらそれでいい。
「樹から離れなきゃ……」
サボテンを見ながら、私はため息をついた。