「うわ、明日からも学校来ないとあかんねや」

「…みたいだね」

模試の日と登校日以外の日で、文化祭の立て看板や装飾をしなければならない。生徒会で作られた工程スケジュールが配られると、作業日に赤丸が多くついていた。
まさかここまでうちの学校が文化祭に力を入れているとはつゆ知らず、ますます面倒くさくなってきた。

「スポーツ科はいいよな。文化祭なくて」

他のクラスの委員がぽそり、呟いた。

「俺等、模試も課題もあるのにクラスの出し物もしないと駄目なんて…」

ぽそりぽそりと湿度の高くて毒素を含む言葉があちらこちらから上がってきた。

埃っぽい空き教室に集められている委員たちはいろんな人がいて、

「え〜みんなで、頑張ろうよ!インスタ映えとかしたいし!」

「みんなでなんかやるのって面白そうじゃん」

と両極端の意見すら上がっていた。
俺は居心地の悪い教室でただ座っていた。文化祭委員がこんなに意見割れてたら、崩壊しそうだな。と他人事のように思っていた。

第三者の意見で、
「え、若王子先輩がいるんですけど…!」と
ヒソヒソ盛り上がる女子がいて、それはそれでうんざりした。


俺は横に座る、文化祭をやりたすぎる田島に目をやった。

どうせコイツも自分の「やりたい」にまわりを巻き込んでいくタイプだろうな。と発言を予想した。


「先輩方、作業工程なんすけど、どこまで出来たら合格みたいなラインあるんですか?」

ぴし、と手を挙げて、発言した田島から出た言葉は、委員会に立候補したときより静かで冷静さがあった。
そんなに静かに意見が言えるなら、立候補の時もいえただろうが。なんて横目で見ながら思った。


「え?どこまでっていうのは?」
油断していた生徒会長がメガネをかけ直しながら返事をした。
はじめて見た生徒会長は、どこか頼りなさげで、横にいる副会長の女の子の方がしっかりと話を進めていきそうだった。
案の定、生徒会長が副会長に助けを請うような目で見つめ始める。
田島は、質問に補足するように言葉を続けた。

「クオリティとかって人によるじゃないっすか。それこそ作業に丁寧に時間かける人、その作業が好きで苦痛じゃない人とか。その逆もあると思うんすよ。やからある程度手本や見本がある方がこっちとしてもやりやすいです」

「あ~…。去年の写真があるから、それくらいのクオリティがあればいいかな。去年の看板とか、残して使い回しができればいいんだけど、保管場所があんまりないから毎年焼却ゴミに出してるんだ。ごめんなさい」

「わかりました。ありがとうございます」