「形見の指輪はあきらめきれないんですね。わかりました。僕が探してみます。毎日、ここに来るし」

 遥希はそう申し出た。おじさんの事情に共感したというより、単純に御守りの行方が気になったのだろう。

「いや、それは悪いよ」

 おじさんは少しあわてた。

「私も探す」

 奈江が言うと、遥希は力強くうなずいて、シェードと一緒に橋を西へ向かって歩いていった。

「この辺りですよね? 事故があったの」

 橋の入り口に立ち、くるりと振り返った遥希は、地面を指差しながらそう言う。

「よく知ってるね」
「昔から、ここは事故が起こりやすいって言われてるから」

 遥希のもとへおじさんは駆けつけると、手振り身振りで、当時の事故の状況を語った。

 小学3年生の息子さんは、大野小学校から宮原神社近くの自宅へ一人で帰る途中、西からやってきた自動車に轢かれそうになったのだという。

 橋の西側は信号のない交差点になっているが、角にある住宅の敷地が道路に張り出していて見通しが悪く、停止せずに交差点に侵入する自動車による事故が起きるのだと、遥希は言った。町内でもなんとかして欲しいという強い要望があり、今春には区画整理が決まった。息子さんの交通事故は、そんな矢先の出来事だった。

「御守りは紺色でしたよね?」

 遥希が問うと、宮原神社で再度授かった、失くしたものと同じ御守りを、おじさんはポケットから取り出して見せてくれた。指輪を入れるには十分なサイズのある立派な御守りだった。

 御守りがないとおじさんが気付いたのは、事故の2日後だった。すぐに彼岸橋を訪れたが、見つけられなかった。一旦はあきらめたものの、どうしてもあきらめきれず、お盆休みを利用して探しに来ていたそうだ。

 その日から、奈江は遥希と一緒に事故の起きた周辺を探した。しかし、御守りは見つからなかった。

 おじさんは時折現れて、まだ探してるんだね。申し訳ない、と頭を下げたが、奈江たちの親切に付き合ってくれているのか、探さなくていいとは言わなかった。

 何か使命感のようなものに囚われて御守りを探していた奈江と遥希だったが、夏休みが終わろうとする頃にはあきらめが浮かんでいた。

「今度、おじさんに会ったら、ごめんなさいって言っておく」

 遥希との最後の会話はそれだったような気がする。また来年会おうね、とか、伯母さんとらんぷやに遊びにおいでよ、とか、そういう次につながる何かではなく、へたに首を突っ込んで、おじさんには申し訳ないことしたね、というそんな会話だった。

 御守りは見つからなかったけれど、あの夏の日がなければ、遥希を好きにはならなかっただろうし、彼と過ごした時間は無駄ではなかったと思いたい。

 奈江はふたたび、彼岸橋を西へ向かって歩き出す。

「またランプ、見に来て、か」

 遥希からはなかった、次につながる何か……そんな秋也の言葉が思い出されて、うっすら笑む。

 あれは、店員が客に言うだけのあいさつ程度の会話だ。なのになぜか、奈江はちょっとだけ、また行ってもいいかもしれないと思うのだった。