今は理科の授業中。でも、千鶴さんは…

(何してるの…?)

 多分、たくさん音符があるから楽譜かな?

『千鶴さん、何してるの?』
『あ、これはその…』
(触れない方が良い感じか。)
『先生が来そうだったら呼ぶから。心配しないで。』
『ありがと。』

 こうやって必死に隠しながら何かをしている千鶴さんって…

(可愛い…!)

 千鶴さんが最後に机の中から取り出したのは…

『あ、その曲…』
(俺の好きな曲…⁈)

 思わず本音が漏れた。この曲、本当に好き。

『え?有島も知ってるの?』
『うん、俺の好きな曲で…』
『本当に?実は私も。』

 千鶴さんも、こういう曲とか聞いたりするんだ。ていうか、楽譜読むの早い…

『千鶴さん、すごいよね。スラスラと楽譜を読めてさ。』
『そんなことないよ。先輩たちの方がもっと早いよ。』

 中一で、そのスピードだったら十分なのでは…?

 ♢ ♢ ♢

「有島、ちょっと聞きたいことがある。」
「どうかした?」
「さっきの曲以外で、好きな曲とかってある?」
「あ、うん。この曲知ってる?」

 筆箱の中に入っていたメモ帳を一枚取り、曲のタイトルを書いた。

「これ、『一つの赤いバラ』って曲。知ってる?」
「あー、何となく知ってはいるけど、聞いたことはないかな。」

 ん?待て待て…この曲…

(千鶴さんのことを好きになってから聞き始めた恋愛系の曲…)

 まあ、流石に千鶴さんが気付くわけ…ね?

「でも、俺の好きな曲を聞いてどうするの…?」
「オーボエの練習に使おうと思って。」

 なら良いか。

「あ、千鶴さんの楽器だっけ?」
「正式的にはクラリネット担当だけど、いつかオーボエも担当したいなって思って。今はまだ練習中!」
(そうなんだ…)
「そうなんだ。練習、頑張ってね。」
「うん、ありがとう。」

 ♢ ♢ ♢

 俺の好きな曲でもある『一つの赤いバラ』の意味。それは…

「『一目惚れ』『あなたしかいない』ねえ…」

 実際のことを言うと、千鶴さんは『一目惚れ』ではない。けど…

「考えれば考えるほどどんどん好きになる気がする…」

 正直、自分がこんな人間だったとは想定外。何だか若干気色悪い気もするが、そこはご愛敬。

「お願いだから気が付きませんように。千鶴さんが俺の思いに気付きませんように!」