こんにちは、俺は有島祐理。今どこに行っているかって?実は、ね…

「痛…」

 そう、さっきの美術の授業の時に、彫刻刀で小指を切ったのです…

(そういえば、千鶴さんも保健室にいるって言っていたよね…)

 同じクラスの千鶴星那さん。一応保健委員なので、朝の出欠は俺が取っている。だから、千鶴さんが体調不良なのも知っていた。

(倒れたって言っていたけど、大丈夫なのかな…)

 ♢ ♢ ♢

「失礼します。千鶴さん、もう大丈夫?」
「有島か。心配かけてごめんね。」
「いいよ、元気になったなら大丈夫!」
「——そっか。で、何で来たの?」

 千鶴さん、痛いところをつかないで…

「保健委員だから…と、言いたいところだけど…」
「血⁈」
「あはは…美術の授業で盛大にやらかして…」
(絶対に笑い事じゃないのに、笑うことしかできない…)

 千鶴さん、びっくりさせちゃったかな…

「い、痛そう…」
「まあ、うん。結構痛いかな。」

 そしたら、少し考えこんでいた千鶴さんが顔をあげて、こう言った。

「私、保健室の先生呼んでくる!」
(千鶴さん、何だかふらついている気が…)

 気づいたときには、もう遅い。

(倒れる⁈)
「千鶴さん⁈」
「へ?」

 千鶴さんが倒れる寸前で、なんとか支えることができた。けど…けど…!

(距離…近すぎ!)

 よく見ると、すごく綺麗な顔立ちをしている。ぱっちり二重、白い肌、桃色の頬。髪も茶色で、絹みたいに綺麗。

「もう、急に起き上がったら危ないよ…」

 あれ?俺、何でこんなに千鶴さんのことを心配しているの?

「だよね…なんか、ごめん。」
「いいよ。探しに行くんだったら俺もついていく。」
「ありがたいけど、もう大丈夫だから。ずっと支えていなくても良いんだよ?」

 本当だ…

「あ、だよね…ごめん…」
「気にしないでよ、私のことを助けてくれたんだから!」

 千鶴さんの、とても優しい、太陽みたいな笑顔。

(なんだか、心臓がおかしい…?)

 俺は、生まれてこの方、恋をしたことがなかった。恋愛の『好き』は分からなかった。だけど…

(人って、こんなに簡単に誰かを好きになるんだ…)

 俺の初恋泥棒は…千鶴さん…あなたです…

 ♢ ♢ ♢

「本当ね…小指からんなに血が出るなんて…まあ、傷は小さそうだから絆創膏だけで大丈夫ね。」
「はい、ありがとうございます。」
「うん。それと、千鶴さんはもう大丈夫なの?」
「はい!もう授業にも出られそうです!」
「なら良かった。じゃあ、また何かあったらおいで。」

 教室に戻るまでは、千鶴さんと二人きり。

(どうしよう…とてつもなく緊張してきたのだが⁈)

 話す話題がなさすぎる…何かないかな…そうだ!

「そういえば、千鶴さんって吹奏楽部希望だったっけ?」

 この前の自己紹介で、自分の入りたいクラブについても話した。だからとりあえず…!

「そう。よく覚えてるね。有島は…なんだっけ?」
「俺はね、スケート部の予定。」
「ふーん、カッコいいじゃん。」

 サラっと言える千鶴さんの方がカッコいいですよ!

「そうかな…?俺は吹奏楽部のほうがカッコいいと思うけどな。」

 クラブ見学、ちょっとだけ楽しみかも。