〜守りたい人〜
side八神幻
病室で陽菜から話を聞いた時、驚きと言うよりは、「やっぱりか」という気持ちが強かった。
俺は"あの事件"が起きた時から、ずっと違和感を感じていた。
しかし、それを誰かに相談することもできない。
何故か話そうとしても、言葉が詰まって上手く伝えることができなかったから。
そんな中、陽菜の話を聞いて確信した。
陽菜だけじゃない。
俺もしっかり、現実と向き合わなければ。
「おい。黒崎」
黒崎の姿を見つけた俺は、すぐさま声をかけた。
「八神くん? 珍しいね。俺に挨拶をするなんて」
俺だって、好きで話しかけた訳じゃない。
でも、確かめなければならないことがある。
「もうアンタは大学に来ないと思ってた」
「どうして来ないと思ったの? 自分が通ってる大学だもん。休む理由はないよ」
アンタだって俺の正体が分かっているはずなのに、最後まで知らないフリを続けるのか?
「まだとぼける気か? もう陽菜には近付くな」
「どうしてそんなことを言うの? 俺は陽菜の兄だ。唯一の肉親。帰る場所だって同じ。近付かないようにするとか、無理な話じゃない?」
どこまでも白々しいんだな。
「陽菜はもう、お前のことを兄だと思っていない」
️
「それが何? それでも俺が兄だという事実は変わらない。それに対して君はどうなの? つい最近出会った、ただの他人。そんな人に俺たちのことをとやかく言われる筋合いはないんだけど」
どんなに強い言葉をかけても、返ってくるのは淡々とした答えだけだった。
確かに、傍から見たら俺はただの大学の友人。
一方、コイツは唯一の家族なのだろう。
でもそれは、"本物の"黒崎碧だったらの話だ。
「お前……黒崎碧じゃないだろ」
俺には、コイツが黒崎碧じゃないという確信があった。
だって俺はコイツの正体を知っているし、本物の碧が誰なのかも知っているから。
「は? 急に何言ってるの? どう見たって碧でしょ」
どうしてそこまで意地を張るんだよ。
本当は自分でも分かっているはずなのに。
だから俺は、核心のついた言葉を放った。
「それは違う。アンタ……マリスだろ」
「なんでその名前を……」
彼は言ってからハッとした表情を見せた。
「図星だな」
そうは言っても、いつもみたいにまた誤魔化すんだろうなと思っていた。
そしたらまた、問い詰めれば良いだけのこと。
「……あーあ。ずっとこのまま知らないフリをしてれば良かったのに」
急に彼の雰囲気が変わる。
正直俺は、マリスが自分の正体を認めると思っていなかった為、少し恐怖心を抱いてしまった。
️「アンタは何者なんだよ。アンタの正体は……!」
「ボクの正体? ボクは八神幻。でもそれはただのまぼろしに過ぎない。八神幻なんて人間、はなから存在していなかったんだよ」
存在していない……?
「存在していないってどういうことだよ」
「さぁ。どういうことだろうね?」
ここはいつものように誤魔化すのかよ。
「まさか、今までの犯人はマリスだったのか?」
「あれ? ボクが八神幻なら君は誰なのか気にならないんだ。君が八神幻と信じ込ませてたのに。すごい執念だね」
「ふざけるな! 今は俺が質問しただろ?」
「ははっ。そんなに怒らないでよ。ボクは今すぐキミを殺すことだってできるんだよ?」
殺すだなんて、どうして簡単にそんなことが言えるんだ。
「それにしても、二人して人のせいにして都合の良いように解釈したがるんだね」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。あ! 良いこと思いついた。ねぇ……キミはさ、大切な人から裏切られたらどう思う?」
……は?
裏切られたら?
「裏切られたらって……何をするつもりだ!」
「内緒! そうと決まれば早速準備しよっと。またね!」
「……おい! マリス!」
アイツ……!
まだ何か企んでいるのか?
でも、アイツの正体が分かった以上、陽菜を守ってやることができるかもしれない。
しかし、実際はそう簡単にいかないものだった。
俺は、これから起こることを甘く見すぎていたのかもしれない。
本当の悪夢はこれからだったんだ。
side八神幻
病室で陽菜から話を聞いた時、驚きと言うよりは、「やっぱりか」という気持ちが強かった。
俺は"あの事件"が起きた時から、ずっと違和感を感じていた。
しかし、それを誰かに相談することもできない。
何故か話そうとしても、言葉が詰まって上手く伝えることができなかったから。
そんな中、陽菜の話を聞いて確信した。
陽菜だけじゃない。
俺もしっかり、現実と向き合わなければ。
「おい。黒崎」
黒崎の姿を見つけた俺は、すぐさま声をかけた。
「八神くん? 珍しいね。俺に挨拶をするなんて」
俺だって、好きで話しかけた訳じゃない。
でも、確かめなければならないことがある。
「もうアンタは大学に来ないと思ってた」
「どうして来ないと思ったの? 自分が通ってる大学だもん。休む理由はないよ」
アンタだって俺の正体が分かっているはずなのに、最後まで知らないフリを続けるのか?
「まだとぼける気か? もう陽菜には近付くな」
「どうしてそんなことを言うの? 俺は陽菜の兄だ。唯一の肉親。帰る場所だって同じ。近付かないようにするとか、無理な話じゃない?」
どこまでも白々しいんだな。
「陽菜はもう、お前のことを兄だと思っていない」
️
「それが何? それでも俺が兄だという事実は変わらない。それに対して君はどうなの? つい最近出会った、ただの他人。そんな人に俺たちのことをとやかく言われる筋合いはないんだけど」
どんなに強い言葉をかけても、返ってくるのは淡々とした答えだけだった。
確かに、傍から見たら俺はただの大学の友人。
一方、コイツは唯一の家族なのだろう。
でもそれは、"本物の"黒崎碧だったらの話だ。
「お前……黒崎碧じゃないだろ」
俺には、コイツが黒崎碧じゃないという確信があった。
だって俺はコイツの正体を知っているし、本物の碧が誰なのかも知っているから。
「は? 急に何言ってるの? どう見たって碧でしょ」
どうしてそこまで意地を張るんだよ。
本当は自分でも分かっているはずなのに。
だから俺は、核心のついた言葉を放った。
「それは違う。アンタ……マリスだろ」
「なんでその名前を……」
彼は言ってからハッとした表情を見せた。
「図星だな」
そうは言っても、いつもみたいにまた誤魔化すんだろうなと思っていた。
そしたらまた、問い詰めれば良いだけのこと。
「……あーあ。ずっとこのまま知らないフリをしてれば良かったのに」
急に彼の雰囲気が変わる。
正直俺は、マリスが自分の正体を認めると思っていなかった為、少し恐怖心を抱いてしまった。
️「アンタは何者なんだよ。アンタの正体は……!」
「ボクの正体? ボクは八神幻。でもそれはただのまぼろしに過ぎない。八神幻なんて人間、はなから存在していなかったんだよ」
存在していない……?
「存在していないってどういうことだよ」
「さぁ。どういうことだろうね?」
ここはいつものように誤魔化すのかよ。
「まさか、今までの犯人はマリスだったのか?」
「あれ? ボクが八神幻なら君は誰なのか気にならないんだ。君が八神幻と信じ込ませてたのに。すごい執念だね」
「ふざけるな! 今は俺が質問しただろ?」
「ははっ。そんなに怒らないでよ。ボクは今すぐキミを殺すことだってできるんだよ?」
殺すだなんて、どうして簡単にそんなことが言えるんだ。
「それにしても、二人して人のせいにして都合の良いように解釈したがるんだね」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。あ! 良いこと思いついた。ねぇ……キミはさ、大切な人から裏切られたらどう思う?」
……は?
裏切られたら?
「裏切られたらって……何をするつもりだ!」
「内緒! そうと決まれば早速準備しよっと。またね!」
「……おい! マリス!」
アイツ……!
まだ何か企んでいるのか?
でも、アイツの正体が分かった以上、陽菜を守ってやることができるかもしれない。
しかし、実際はそう簡単にいかないものだった。
俺は、これから起こることを甘く見すぎていたのかもしれない。
本当の悪夢はこれからだったんだ。