〜閉ざされた記憶〜
幻を信じたいと思った私は、思い切ってもう一つ相談してみる。
「ねぇ、少し相談があるんだけど」
「なんだ?」
「……お兄ちゃんのこと。最初は気にしてなかったんだけど、やっぱり違和感を感じて」
幻は、一気に真面目な顔付きになった。
「お兄ちゃん、突然性格が変わった気がするの。ちょうど放火事件が起きた後ぐらいかな。前までは口が悪くて、荒っぽい性格だったの」
「どんなイメージ持ってんだよ」
「本当だよ。あまりに他の人と私への接し方が違いすぎて、嫌われてるのかと思ってた」
「それは……」
「分かってる。お兄ちゃんは私を心配してくれていた。あれは、お兄ちゃんなりの優しさだったって、今なら思える」
「じゃあ今の黒崎は?」
今のお兄ちゃん……。
「……優しい。優しすぎる。それに怖いくらい、私と似ているの。私とお兄ちゃんは正反対の性格って感じがしていたのに、急にそっくりになったっていうか……。兄妹だから、そういうこともあるかもしれないって割り切ってたけど、それだけでは説明できない気がする」
急に性格が変わることだってあるにはあるだろう。
しかし、極端に変わってしまう可能性は低いだろう。
「……陽菜は、今の黒崎の方が良いのか?」
「うん……。今まではそう思ってた。でも、今回のことがあって、お兄ちゃんのことを信じて良いのか分からなくなった。見た目は確かにお兄ちゃんなんだけど、なんか違うって言うか……。お兄ちゃんならあんなことを言わないと思う。むしろ、幻が言ったような言葉をかけてくれると思うよ」
「……ごめんな」
幻の口から出たのは、謝罪の言葉だった。
「どうして幻が謝るの? 幻は何も悪いことしてないじゃん」
「そうじゃなくて、本当に自分は情けないって言うか……。あぁ、もう! どうすりゃ良いんだよ」
幻は、思うように言葉が出てこないようだった。
「……幻?」
「いや、何でもない。とにかく、俺はずっと陽菜の味方だ。それだけはちゃんと伝えたかった」
どうしてだろう。
何度も裏切られてきたのに、幻だけは最後まで私を信じてくれる気がした。
「色々話したら少し疲れちゃったね」
「そうだな。無理してないか?」
「大丈夫。むしろ幻に話したらスッキリしたかも」
「それなら良かった」
その時、スマホの通知音が鳴った。
「あ、わりぃ。俺のスマホだ」
「ちょっと。病院ではマナーモードにしてよね」
「ごめんって。忘れてた……って、え?」
画面を見た幻の動きが止まった。
「どうしたの?」
そう言いながら、私は幻に近付いた。
「なっ……何でもない」
しかし、幻の方から避けられてしまった。
「あ……いや、陽菜は見ない方が良いかも」
そう言うってことは、恐らくまた悪いニュースなのだろう。
「もしかして……また誰か殺されたの?」
幻は何も答えない。
でも、その無言は肯定を意味していた。
「大丈夫だよ……! それに気になるから幻が帰ったあとに調べちゃうだろうし、だったら今一緒に見た方が良いよ」
幻はゆっくりと頷いた。
「それも……そうだな」
私は、幻からスマホを受け取った。
「……嘘、でしょ」
そこには、「都心で次々と殺人事件が発生」と書かれていた。
「……死亡者は十名。その十人は、同日死亡が確認された」
……え?
「……これって、私が倒れてからのニュースだよね?」
「あぁ」
「私が倒れてから五時間くらい経ったけど……それで十人?」
「ヤバイよな。到底人間のやることじゃないな」
記事には続きがあった。
「……それ以上に不可解なのは、死亡者の共通点だ。犯人は、指名手配犯や犯罪履歴のある者だけを狙って反抗を起こしたようだ。巷では、犯人をアンチヒーローと呼ぶ者も居るようだ」
つまりは、犯罪者を狙った犯行というわけか。
「なお、現在も犯人の捜索は続いている。目撃者によると、犯人は二十歳前後の男性、身長は百七十センチ程とのことだ」
「そこに写真も載ってるだろ? まぁ、そのくらいじゃあまり手がかりにならないだろうけどな」
幻は、そう言いながら写真を見せてきた。
️「確かに。フードを被ってるし、顔も見えないね」
でも、どこかで会ったことがある気がする。
あれは確か……高校時代の夏休み。
「……マリス」
!!
今、どうしてその言葉が出てくるの?
「マリスって……現場に残されていた言葉のことか?」
幻も首を傾げている。
「ううん。この男の名前がマリス」
口が勝手に動いて、気が付くとそんなことを言っていた。
「それは確実なのか? そもそも、どうしてこの男の名前を知ってるんだ」
分からない。
だけど、この写真を見た途端、急にあの日のことを思い出したのだ。
何も答えない私に、幻は続けて話す。
「もしかして、こいつが今までの犯人なのか?」
それはないだろう。
今までと方法も違うし、連続殺人犯が、こんな目立つ犯行をする訳がなかった。
「犯人では……ないと思う。確実とは言えないけど。でも、マリスなら、少なくとも関与はしているはず」
「さっきからマリスって言ってるけど、あの日もその言葉を言っていたよな」
「え? あの日って……」
その言葉で、幻はハッとした表情を見せる。
「幻……。もしかして……」
何かを知っているの?
言いかけたところで、また激しい頭痛に襲われる。
「陽菜! もういい。無理はするな。難しいことを考えたら脳に負荷がかかる。だから、まずはゆっくり休め」
「……そうだよね。ありがと」
幻は最後まで心配そうな顔をしていた。
ああ言ってくれたけど、やはり、気になるものは気になる。
仮に、本当にあの男がマリスだったとして、どうして今更現れたのだろう。
まるで、機会を伺っていたかのように。
これは偶然?
「……もしこれが、偶然じゃないのなら」
その時、私の中に一つの仮説が浮かぶ。
もし、私の仮説があっているのなら、私はとんでもない勘違いをしていたことになる。
その答え合わせをする為には……
「もう一度、あの人に会いに行かないと」
幻を信じたいと思った私は、思い切ってもう一つ相談してみる。
「ねぇ、少し相談があるんだけど」
「なんだ?」
「……お兄ちゃんのこと。最初は気にしてなかったんだけど、やっぱり違和感を感じて」
幻は、一気に真面目な顔付きになった。
「お兄ちゃん、突然性格が変わった気がするの。ちょうど放火事件が起きた後ぐらいかな。前までは口が悪くて、荒っぽい性格だったの」
「どんなイメージ持ってんだよ」
「本当だよ。あまりに他の人と私への接し方が違いすぎて、嫌われてるのかと思ってた」
「それは……」
「分かってる。お兄ちゃんは私を心配してくれていた。あれは、お兄ちゃんなりの優しさだったって、今なら思える」
「じゃあ今の黒崎は?」
今のお兄ちゃん……。
「……優しい。優しすぎる。それに怖いくらい、私と似ているの。私とお兄ちゃんは正反対の性格って感じがしていたのに、急にそっくりになったっていうか……。兄妹だから、そういうこともあるかもしれないって割り切ってたけど、それだけでは説明できない気がする」
急に性格が変わることだってあるにはあるだろう。
しかし、極端に変わってしまう可能性は低いだろう。
「……陽菜は、今の黒崎の方が良いのか?」
「うん……。今まではそう思ってた。でも、今回のことがあって、お兄ちゃんのことを信じて良いのか分からなくなった。見た目は確かにお兄ちゃんなんだけど、なんか違うって言うか……。お兄ちゃんならあんなことを言わないと思う。むしろ、幻が言ったような言葉をかけてくれると思うよ」
「……ごめんな」
幻の口から出たのは、謝罪の言葉だった。
「どうして幻が謝るの? 幻は何も悪いことしてないじゃん」
「そうじゃなくて、本当に自分は情けないって言うか……。あぁ、もう! どうすりゃ良いんだよ」
幻は、思うように言葉が出てこないようだった。
「……幻?」
「いや、何でもない。とにかく、俺はずっと陽菜の味方だ。それだけはちゃんと伝えたかった」
どうしてだろう。
何度も裏切られてきたのに、幻だけは最後まで私を信じてくれる気がした。
「色々話したら少し疲れちゃったね」
「そうだな。無理してないか?」
「大丈夫。むしろ幻に話したらスッキリしたかも」
「それなら良かった」
その時、スマホの通知音が鳴った。
「あ、わりぃ。俺のスマホだ」
「ちょっと。病院ではマナーモードにしてよね」
「ごめんって。忘れてた……って、え?」
画面を見た幻の動きが止まった。
「どうしたの?」
そう言いながら、私は幻に近付いた。
「なっ……何でもない」
しかし、幻の方から避けられてしまった。
「あ……いや、陽菜は見ない方が良いかも」
そう言うってことは、恐らくまた悪いニュースなのだろう。
「もしかして……また誰か殺されたの?」
幻は何も答えない。
でも、その無言は肯定を意味していた。
「大丈夫だよ……! それに気になるから幻が帰ったあとに調べちゃうだろうし、だったら今一緒に見た方が良いよ」
幻はゆっくりと頷いた。
「それも……そうだな」
私は、幻からスマホを受け取った。
「……嘘、でしょ」
そこには、「都心で次々と殺人事件が発生」と書かれていた。
「……死亡者は十名。その十人は、同日死亡が確認された」
……え?
「……これって、私が倒れてからのニュースだよね?」
「あぁ」
「私が倒れてから五時間くらい経ったけど……それで十人?」
「ヤバイよな。到底人間のやることじゃないな」
記事には続きがあった。
「……それ以上に不可解なのは、死亡者の共通点だ。犯人は、指名手配犯や犯罪履歴のある者だけを狙って反抗を起こしたようだ。巷では、犯人をアンチヒーローと呼ぶ者も居るようだ」
つまりは、犯罪者を狙った犯行というわけか。
「なお、現在も犯人の捜索は続いている。目撃者によると、犯人は二十歳前後の男性、身長は百七十センチ程とのことだ」
「そこに写真も載ってるだろ? まぁ、そのくらいじゃあまり手がかりにならないだろうけどな」
幻は、そう言いながら写真を見せてきた。
️「確かに。フードを被ってるし、顔も見えないね」
でも、どこかで会ったことがある気がする。
あれは確か……高校時代の夏休み。
「……マリス」
!!
今、どうしてその言葉が出てくるの?
「マリスって……現場に残されていた言葉のことか?」
幻も首を傾げている。
「ううん。この男の名前がマリス」
口が勝手に動いて、気が付くとそんなことを言っていた。
「それは確実なのか? そもそも、どうしてこの男の名前を知ってるんだ」
分からない。
だけど、この写真を見た途端、急にあの日のことを思い出したのだ。
何も答えない私に、幻は続けて話す。
「もしかして、こいつが今までの犯人なのか?」
それはないだろう。
今までと方法も違うし、連続殺人犯が、こんな目立つ犯行をする訳がなかった。
「犯人では……ないと思う。確実とは言えないけど。でも、マリスなら、少なくとも関与はしているはず」
「さっきからマリスって言ってるけど、あの日もその言葉を言っていたよな」
「え? あの日って……」
その言葉で、幻はハッとした表情を見せる。
「幻……。もしかして……」
何かを知っているの?
言いかけたところで、また激しい頭痛に襲われる。
「陽菜! もういい。無理はするな。難しいことを考えたら脳に負荷がかかる。だから、まずはゆっくり休め」
「……そうだよね。ありがと」
幻は最後まで心配そうな顔をしていた。
ああ言ってくれたけど、やはり、気になるものは気になる。
仮に、本当にあの男がマリスだったとして、どうして今更現れたのだろう。
まるで、機会を伺っていたかのように。
これは偶然?
「……もしこれが、偶然じゃないのなら」
その時、私の中に一つの仮説が浮かぶ。
もし、私の仮説があっているのなら、私はとんでもない勘違いをしていたことになる。
その答え合わせをする為には……
「もう一度、あの人に会いに行かないと」