〜涙の跡〜
大切な親友を亡くし、生きている心地がしない日々が続いた。
あからさまに元気がない私を見て、心配するあまり声をかけてくる人も居た。
笑顔で対応をしていたものの、それが作り笑いだってことは、誰もが気付いているのだろう。
今日も暗い気持ちで大学に向かっている時のことだった。
「なぁ、陽菜。最近、八神と仲良いよな?」
お兄ちゃんが、突然そんなことを言い出す。
「仲良い……。うん、まぁ……」
「なるほどねぇ」
なるほどって何よ。
「柚葉ちゃんのことなんだけどさ」
まだ何かあるの?
「……こんなこと言っても、陽菜の気持ちは晴れないだろうけどさ。陽菜がいつまでも暗い顔をしていると、柚葉ちゃんも成仏できないよ」
「……」
それでも、ありもしない罪で警察に捕まり、挙句の果てには殺されてしまうなんて、あまりにも悲しい結末だった。
「柚葉ちゃんは陽菜のことを本当に大切に思っていたよ。だからさ、自分のことで陽菜が悩んでいるって知ったら悲しむんじゃないかな」
それは……分かっている。
「別に、忘れろなんて言わない。でも、陽菜には前を向いてほしんだ。どんなに悲しんだって、死んだ人は戻ってこない。辛いけれど、それが現実なんだ」
「……うん」
「陽菜がその分、幸せになれば良いんだ。きっと、柚葉ちゃんもそれを望んでいる」
柚葉が望んでいる……か。
「……そうだよね。ありがとう」
お兄ちゃんのおかげで、少しは心が軽くなった気がした。
「それでさ、結局陽菜は俺と八神、どっちが大切なの?」
「……え?」
その話、まだ終わってなかったの?
「なんか、彼女みたいなことを言うんだね。お兄ちゃんに決まってるじゃん。家族なんだから」
「家族……。家族かぁ」
何故かお兄ちゃんは嬉しそうだった。
そして、急にわしゃわしゃと頭を撫でてきた。
「ちょっと、やめてよ」
「いいじゃーん。家族なんだから」
そう言い残し、お兄ちゃんはスキップをしながら先に行ってしまった。
え……本当に何?
ちょっとキモイんですけど。
「てか、何私のこと置いていってるのよ」
それを後ろで聞いている人が居た。
「……陽菜、黒崎の方が大切なのか?」
「幻……」
あぁもう!
何なの、この面倒くさい人たちは……!
朝のやり取りもあり、家に帰った時にはすっかり以前の私に戻っていた。
悩みの種が一つ減った私は、久しぶりにぐっすりと眠ることができた。
その夜、私は夢を見た。
幼い頃、柚葉と遊んでいた時の夢。
家族と旅行した時の夢。
それらは、全く記憶にないものだった。
でも、妙に具体的でリアルだ。
何故か懐かしく、幸せな気持ちになった。
目を覚ました時、私は真っ先にアルバムを開いた。
今までは全く開かなかった。
いや、アルバムがあることすら忘れていた。
このアルバムだけは、家が燃えても残っていたのだ。
ゆっくりと、一ページ目をめくる。
そこには、家族と楽しそうに笑い合う私の姿があった。
「私は家族と仲が悪かったはず……」
次のページからも、仲の良い楽しそうな雰囲気が漂う写真が続く。
私は家族から虐待を受けていた。
だから、こんなに楽しそうな写真が残っているはずがない。
いや……でも、本当に私は虐待を受けていたの?
ページをめくり続けると、一通の手紙を見つけた。
それは、お母さんからの手紙だった。
「……お母さん?」
どうしてこんなところに手紙が挟んであるのだろう。
私は、急いで手紙の封を開け、内容を確認した。
『陽菜へ
成人おめでとう。これであなたも立派な大人の一員ね。ここまで健康に育ってくれて、お母さんも嬉しいわ。最近思春期なのか、あまり話そうとしてくれないわよね。だから、お母さんは手紙に想いを綴ることにしたわ。直接渡すのは恥ずかしいから、この手紙は陽菜の大切なアルバムの中に挟んでおくことにするわ。見つけてくれるといいな』
お母さん……。
もし私が、アルバムを開かなかったらどうするつもりだったの。
でもきっと、お母さんは私がアルバムを開くことを信じていたんだね。
『陽菜は小さい頃から明るくて、本当に私たちのアイドルのような存在だったわ。碧とも仲が良くて、二人のやり取りがずっと微笑ましかった。莉子が生まれてからも、アイドルが二人になったってお父さんと喜んだのよ。どうしても莉子の方に時間を割くことが増えちゃったけど、それでも変わらず、陽菜と碧のことは大切だった。でも、最近なんだか陽菜が元気なさそうだから心配してたの。何か悩んでることがあるなら相談してね? とは言っても、私たちには言いづらいわよね。陽菜ったら優秀だから、ついつい私たちも陽菜に期待しちゃってたの。でも、それが負担になってるのよね。そういえば、陽菜の名前「太陽のように明るく、菜の花のようにかわいい女の子になってほしい」って意味で、お父さんが付けたのよ。怖い顔して、可愛らしいことを考えるわよね。陽菜は、太陽と言うより、お月様みたいに私たちを優しく照らす人育ったわよね。それでも、可愛らしい子に育ってくれたのは間違いないわ。それに、菜の花には小さな幸せって言う花言葉があるみたいよ。小さな幸せが積み重なって、陽菜の人生が幸せになることをお母さんは願ってるわ。大好きよ』
本当に私は家族と仲が悪かったの……?
どう考えても、この手紙を見て仲が悪かったようには思えない。
やっぱり、私の記憶が間違っているんだ。
気が付くと、私は泣いていた。
どうして、家族は死んでしまったの?
どうして、こんな勘違いをしていたの?
私はこの理由を知る必要があった。
その理由こそ、この事件を解決する鍵になると思ったから。
大切な親友を亡くし、生きている心地がしない日々が続いた。
あからさまに元気がない私を見て、心配するあまり声をかけてくる人も居た。
笑顔で対応をしていたものの、それが作り笑いだってことは、誰もが気付いているのだろう。
今日も暗い気持ちで大学に向かっている時のことだった。
「なぁ、陽菜。最近、八神と仲良いよな?」
お兄ちゃんが、突然そんなことを言い出す。
「仲良い……。うん、まぁ……」
「なるほどねぇ」
なるほどって何よ。
「柚葉ちゃんのことなんだけどさ」
まだ何かあるの?
「……こんなこと言っても、陽菜の気持ちは晴れないだろうけどさ。陽菜がいつまでも暗い顔をしていると、柚葉ちゃんも成仏できないよ」
「……」
それでも、ありもしない罪で警察に捕まり、挙句の果てには殺されてしまうなんて、あまりにも悲しい結末だった。
「柚葉ちゃんは陽菜のことを本当に大切に思っていたよ。だからさ、自分のことで陽菜が悩んでいるって知ったら悲しむんじゃないかな」
それは……分かっている。
「別に、忘れろなんて言わない。でも、陽菜には前を向いてほしんだ。どんなに悲しんだって、死んだ人は戻ってこない。辛いけれど、それが現実なんだ」
「……うん」
「陽菜がその分、幸せになれば良いんだ。きっと、柚葉ちゃんもそれを望んでいる」
柚葉が望んでいる……か。
「……そうだよね。ありがとう」
お兄ちゃんのおかげで、少しは心が軽くなった気がした。
「それでさ、結局陽菜は俺と八神、どっちが大切なの?」
「……え?」
その話、まだ終わってなかったの?
「なんか、彼女みたいなことを言うんだね。お兄ちゃんに決まってるじゃん。家族なんだから」
「家族……。家族かぁ」
何故かお兄ちゃんは嬉しそうだった。
そして、急にわしゃわしゃと頭を撫でてきた。
「ちょっと、やめてよ」
「いいじゃーん。家族なんだから」
そう言い残し、お兄ちゃんはスキップをしながら先に行ってしまった。
え……本当に何?
ちょっとキモイんですけど。
「てか、何私のこと置いていってるのよ」
それを後ろで聞いている人が居た。
「……陽菜、黒崎の方が大切なのか?」
「幻……」
あぁもう!
何なの、この面倒くさい人たちは……!
朝のやり取りもあり、家に帰った時にはすっかり以前の私に戻っていた。
悩みの種が一つ減った私は、久しぶりにぐっすりと眠ることができた。
その夜、私は夢を見た。
幼い頃、柚葉と遊んでいた時の夢。
家族と旅行した時の夢。
それらは、全く記憶にないものだった。
でも、妙に具体的でリアルだ。
何故か懐かしく、幸せな気持ちになった。
目を覚ました時、私は真っ先にアルバムを開いた。
今までは全く開かなかった。
いや、アルバムがあることすら忘れていた。
このアルバムだけは、家が燃えても残っていたのだ。
ゆっくりと、一ページ目をめくる。
そこには、家族と楽しそうに笑い合う私の姿があった。
「私は家族と仲が悪かったはず……」
次のページからも、仲の良い楽しそうな雰囲気が漂う写真が続く。
私は家族から虐待を受けていた。
だから、こんなに楽しそうな写真が残っているはずがない。
いや……でも、本当に私は虐待を受けていたの?
ページをめくり続けると、一通の手紙を見つけた。
それは、お母さんからの手紙だった。
「……お母さん?」
どうしてこんなところに手紙が挟んであるのだろう。
私は、急いで手紙の封を開け、内容を確認した。
『陽菜へ
成人おめでとう。これであなたも立派な大人の一員ね。ここまで健康に育ってくれて、お母さんも嬉しいわ。最近思春期なのか、あまり話そうとしてくれないわよね。だから、お母さんは手紙に想いを綴ることにしたわ。直接渡すのは恥ずかしいから、この手紙は陽菜の大切なアルバムの中に挟んでおくことにするわ。見つけてくれるといいな』
お母さん……。
もし私が、アルバムを開かなかったらどうするつもりだったの。
でもきっと、お母さんは私がアルバムを開くことを信じていたんだね。
『陽菜は小さい頃から明るくて、本当に私たちのアイドルのような存在だったわ。碧とも仲が良くて、二人のやり取りがずっと微笑ましかった。莉子が生まれてからも、アイドルが二人になったってお父さんと喜んだのよ。どうしても莉子の方に時間を割くことが増えちゃったけど、それでも変わらず、陽菜と碧のことは大切だった。でも、最近なんだか陽菜が元気なさそうだから心配してたの。何か悩んでることがあるなら相談してね? とは言っても、私たちには言いづらいわよね。陽菜ったら優秀だから、ついつい私たちも陽菜に期待しちゃってたの。でも、それが負担になってるのよね。そういえば、陽菜の名前「太陽のように明るく、菜の花のようにかわいい女の子になってほしい」って意味で、お父さんが付けたのよ。怖い顔して、可愛らしいことを考えるわよね。陽菜は、太陽と言うより、お月様みたいに私たちを優しく照らす人育ったわよね。それでも、可愛らしい子に育ってくれたのは間違いないわ。それに、菜の花には小さな幸せって言う花言葉があるみたいよ。小さな幸せが積み重なって、陽菜の人生が幸せになることをお母さんは願ってるわ。大好きよ』
本当に私は家族と仲が悪かったの……?
どう考えても、この手紙を見て仲が悪かったようには思えない。
やっぱり、私の記憶が間違っているんだ。
気が付くと、私は泣いていた。
どうして、家族は死んでしまったの?
どうして、こんな勘違いをしていたの?
私はこの理由を知る必要があった。
その理由こそ、この事件を解決する鍵になると思ったから。