町田涼真の愛猫は、綿雲のような猫だった。白くてふわふわで、瞳は天色(あまいろ)。撫でると大きな声でゴロゴロと鳴き、ドライフードよりはウェットタイプの餌が大好物で、抜け毛の季節になると、何度ブラッシングしても白くて長い毛がたくさん取れた。毛玉のボールを作ると、よくそれで遊んだ。桜色の肉球はこんがりいい匂いがして、いつも日当たりが一番いいリビングの窓際で、気持ちよさそうにへそ天姿で眠っていた。涼真の猫――ナツは、晴れた夏の空みたいな猫だった。
 そんなナツが、三日前にこの世を去った。十九歳だった。
 亡くなった翌日、町田家全員でナツを手厚く弔った。小さな棺の中に、ナツのお気に入りのタオルケットを敷き、その上にナツを寝かせ、たくさんの向日葵を入れた。ナツは穏やかに眠っているように見えた。
 ナツは灰となって町田家へ帰って来た。小さな白い骨壺に入ったナツは、もうゴロゴロと鳴かないし、毛も抜けない。涼真が撫でても、骨壺はひんやりと冷たかった。
 涼真は骨壷を抱き抱えながら、ふと、窓際を見る。ナツが使っていたクッションはまだそこにあった。ナツの姿だけがない。だが涼真には、ナツの鳴き声が聞こえたような気がしていた。次の日も、また次の日も。食事中、ナツがご飯をねだって足にすり寄って来たときの感触や、二階から降りて来るナツの警戒心のない足音。涼真にはナツが生きていたときと同じように、感じたり、聞こえたりした気がした。
 ナツが死んで一週間が経ったある日。
 涼真には、ナツの姿がはっきりと見えていた。ナツはいつものように、クッションの上で日向ぼっこをしていた。気持ちよさそうに、ぐーっと背伸びしながら。
 しかし、ナツの姿は涼真以外、家族の誰にも見えていなかった。
 奇妙なことは、ここから始まる。
 死んだはずのナツが日向ぼっこしている横に、三年前に亡くなった祖母の姿があった。幸せそうに眠るナツを、祖母が丁寧に優しく撫でていた。

 だから、涼真はきょう、母に連れられ病院へやって来たわけである。