七月の昼下がり。河川敷のアスファルトは熱く、踊る炎のような陽炎が見えた。
 十六歳の終わり。夏の始まり。涼真は自転車に乗って走った。
 風が吹く。生い茂る草がザラザラと揺れる。纏わりつくような熱風に乗って、歌声が聞こえた。
 風に運ばれてきたその声は、砂漠のどこかにあるオアシスのような瑞々しさがある。
 揺らめく陽炎の中、声の主が見えた。河川敷の橋の下で、小さく口ずさむように歌っている。
「綺麗だ……」
 振り返った彼女は――泣いていた。