「え? 蔵元さん?」
「いや、起きがけにボケんな! あんたが蔵元さんでしょ?」
「え? 私は高橋ですけど?」
「ちょっと! やっぱり高橋さんだったじゃない!」

 ププッ、騙されましたね。

「騙されたじゃないんだよ!」

 えへへ、お茶目なジョークじゃないですか。

「所で、御堂さんはこんな所で何してんの?」
「私の名前をしってんの?」
「だって、クラスメートだし」
「だったら、何で最初にボケた?」
「それはお約束みたいな?」

 高橋さんもボケ担当みたいですね。よかったですね、仕事が増えましたよ。

「ツッコミ担当も欲しいよ」

 それは、その内って事で。

「でさ、高橋さんは女神ってのに連れて来られたんだよね?」
「そうそう。急にこの世界に連れて来られて、これからお前は聖女だって」
「ところでさ、聖女って何が出来るの?」
「こむら返りを治す位かな?」
「いや~、あれ痛いもんね。って限定的過ぎるだろ!」
「だって、レベル低いし」
「高橋さんもレベルって言った。そのレベルって何?」
「レベルはレベルでしょ?」
「説明になってないよ」

 まぁ、あのクソ女神の加護なんて、そんなもんですよ。それとレベルっていうのは、なんかすっごいやつです。

「だからさ、説明になってないんだよ! まぁ、いいいや。所で高橋さんも、何か使命みたいのを押し付けられてるの?」
「魔王を倒せって……」
「魔王? それって」

 灯ちゃんが倒しちゃった奴ですね。因みに今の魔王は、灯ちゃんです。

「御堂さんが? じゃあ御堂さんを倒さないと!」
「いや、倒さないでよ」

 それに、高橋さんじゃ手も足も出ませんよ。何せ灯ちゃんのレベルは一万ですから。

「単位がバグってる! この間は千って言ってたし」

 因みに高橋さんのレベルは如何ほどに?

「私は三かな」
「ひく!」
「今まで何してたの?」
「今までって言われても、こっちに来たのが三日前だし」
「それで?」
「街中でこむら返りが流行ってたから、それを治してたの」
「そんなの流行らないでしょ?」
「それも、魔王の仕業なんだって」
「魔王って案外しょぼいのか?」

 まぁ、灯ちゃんがワンパンで倒した位ですし。

「パンチすらしてないけどね」

 確かに自爆みたいな?

「身も蓋も無い事を言うな!」

 それにしても、高橋さんのレベルが三とは。想定外もいいところですね。

「なんでよ」

 今の所は、人質としての価値しか有りません。

「人質にして誰と交渉するのよ!」

 前にも言いましたけど、国ですよ。この世界に聖女は一人きりなんですから。

「こむら返りしかなおせませんけど」
「自分で言うな!」

 そんな拙い加護しか与えてくれないクソ女神とは、縁を切っちゃいましょう。

「そんな事が出来るんですか?」

 ええ。もう切っちゃいました。

「早や! そんな簡単に色々出来るなら、私と高橋さんを帰してよ!」

 だから、嫌ですって。これから面白くなるんですから。

「面白く?」

 世界を相手に、灯ちゃんが無双するんです。

「怖い怖い!」

 聖女も手に入った事ですしね。そうだ。この際です、高橋さんをパワーレベリングしちゃいましょう。
 そして高橋さんと一緒に天下を取るんです。

「盛り上がってる所、申し訳ないんだけど」
「どうしたの、高橋さん?」
「ここから逃がして欲しいの」

 なんか唐突にぶっこんで来ましたね。

「あんたが言うな!」

 どうせ、この国で奴隷の様にこき使われてるから、逃げたいなんて所でしょ?

「高橋さんって、そんな扱いを受けてたの? こむら返りを治してたんじゃなかったの?」
「私じゃなくて、宮本君がね」
「お前じゃないんかい!」
「だから、宮本君を逃がしてあげて欲しいの」
「宮本君って、あの宮本君。習字部の?」
「そう。宮本君は勇者にされちゃったの」

 はっはぁ~ん。わかりましちょ。

「噛んだね」
「噛みましたね」

 全て理解したのです。

「スルーしたね」
「しましたね」

 うるさいですよ、二人共! それより、宮本君に何が起きているのか説明しましょう。

「何がって? こき使われてるとかじゃないの?」

 浅はかですね、灯ちゃん。勇者としてよばれたからには、戦わなきゃいけません。

「何と?」
「魔王とですよ」
「高橋さんが答えるんかい!」

 魔王の配下と壮絶な戦いを繰り広げ、今まさにレベルアップの真っ最中なのです。そんな時に、灯ちゃんが魔王を倒してしまいました。

「全部、あんたのせいだけどね」

 そして、新たな魔王はもっと強大な力をもってます。

「だから、あんたのせいだって」

 そんな過酷な状況から、宮本君を救い出したいと言うのですね?

「そう、大体そんな感じ」
「大体って、高橋さんも案外適当だな」
「だからね、蔵元さんに力を貸してほしいの」
「そうは言ってもね。宮本君がどこにいるかわかんないし」

 そんなの私にかかれば、昼ごはん前のおやつですよ。

「意味がわかんないし!」

 ま、そんな事より食事にしましょう。お腹が空きました。

「AIもお腹が空くんかい!」

 味噌ラーメン丼が良いですね。

「だいぶ攻めてる丼物だな! ラーメンの汁でごはんがビチャビチャになるだろ!」
「私もその味噌ラーメン丼で」
「高橋さんもかい!」

 濃厚な味噌のスープをおかずに、白飯を掻き込む。それはそれは、もう。エッキサイティン!

「何とか丼の話はいいよ! 大体、私はお腹が空いてないんだよ」
「私は空きましたよ。もう朝ですし」
「いつ日が明けた!」
「とっくに日は昇ってますよ。もうそろそろ、お昼でも良いかも」

 わかってらっしゃいますね、高橋さん。じゃあ、とっととご飯を食べて、宮本君を拉致りに行きますか。

「おい! 拉致っていったか?」

 言ってませんよ。

「言ってませんね」
「ボケが二人とか、もうやだよ」