タイトル【恋と故意】



 嫉妬の蛇は故意に空腹だった。
 自分のため、そして誰かのため。
 極度の空腹は判断を鈍らせる。
 今まで視界入らないようなものさえも見逃せなかった。

 蛇は鼠を求めた。
 しかし逃げられた。

 悔しい。悔しい。悔しい。

 一つの感情に埋め尽くされた蛇は助けを求める。
 なぜ逃げられたのか。
 どうしたらよかったのか。
 これからどうすべきか。
 判断の鈍った蛇は助けを求めた。


 理性と知能を持った猿の縁者は動く。


 鼠は強欲だった。

 得られる信頼。ほしい。もっと欲しい。
 得られる褒美。ほしい。もっと欲しい。
 与えられる好意。ほしい。もっと欲しい。
 与えられる快楽。ほしい。もっと欲しい。

 どれが、なんて優先順位はない。
 手に入るのならすべてが同率。

 ほしい。ほしい。ほしい。
 選べない。


 鼠にのしかかる兎は色香を漂わせた。

 なぜか。
 蛇が好いている相手だからだ。

 蛇は嫌い。
 嫌いだから、幸せになることは妬ましい。
 けれど蛇に何かしてみたら、自分に害が及んでしまう。
 はてさてどうしよう。
 どうしたら嫌いな蛇が幸せにならず、自分が幸せになれるだろう。

 兎は考えた。
 そうだ。鼠にヤらせよう。

 兎は誘った。
 自分を最大限に活かし。
 鼠を最大限に活かし。
 自分の巣穴へ誘い込む。

 それは秘密裏に行われた。
 なぜか。蛇が怖いからだ。

 兎は自分が弱いことを理解していた。
 兎は蛇には勝てないことを理解していた。
 兎の強みは蛇には効かないと理解しているた。

 だから、鼠を狙った。
 例え、兎は鼠にも勝てないとしても。
 兎は鼠のことを、また、蛇のことも理解していたから。


 龍は理解した。
 これは、誰も幸せになっていない物語であると。
 物語は幸せになるべきものだという信条のもと、改変されるべきであると。
 だから龍は動いた。


 蛇には食事を与えた。
 満たされた蛇は、鼠に対する気持ちを失った。
 空腹が紛れたからだ。
 鼠に対する好意は、故意に空腹になったから湧いて出たものだった。


 兎には結果を与えた。
 蛇はもう、好意を持っていないと。
 蛇は幸せを得てはいないが、不幸でもないと。
 幸せではないのならもういいと兎は言った。
 蛇への関心は消え、鼠からも離れた。


 鼠には結果を与えた。
 蛇はもう、好意を持っていないと。
 持っていない者は与えられないと。
 兎ももう、鼠から時間を奪うことはしないと。
 得られないのならと鼠は身を引いた。
 奪われるのならと鼠は身を引いた。
 実のところ、鼠は何もしてはいないのだが。


 龍は全員に平穏をもたらした。
 龍は満足そうに笑って言った。


「ハッピーエンドだね」





――――― ❀ ―――――