最近になって気が付いたんですが、裕子ちゃんと美夏ちゃんって何者なんでしょう。特にこの間やったサバイバルゲームでは、まるでゲームの中みたいに飛んだり跳ねたりしてました。
 
「いやぁ、あれは人間業じゃないね」
「そんな事ないわよ。あんたが、運動音痴なだけでしょ?」
「うん、そうだね。普通だよ普通」
「裕子ちゃんと美夏ちゃんの常識は、世間一般の常識じゃないの。裕子ちゃんは食欲魔王だし、美夏ちゃんは天然で変な子だし」
「はぁ? だれが食欲魔王よ!」
「ぼくって天然? そんな事ないよね?」

 あぁ、うるさいです。夜なのに騒がないで欲しいです。
 
 私達が何をしているのかって? そんなの答えは簡単です。女子会と言う名の、飲んだくれ大会です。そして私は、いつも通りに巻き込まれています。
 
 最近、おかしいんですよ。裕子ちゃんの入り浸り方が尋常じゃないです。外出している時以外は、ほとんど私の部屋に居ます。
 引っ越して来たばっかりの時は、寝るとき位は自分の部屋で寝ていたんですけど。最近は毎晩、私のベッドを占領してます。私は仕方なく、裕子ちゃんの部屋のベッドに行くんです。それで翌朝になると、怒るんです。あんた、また私のベッド勝手に使ったでしょって。それは、私のセリフですよ。
 
 布団さえあれば、床で寝ても良いんですけど。床では美夏ちゃんがごろ寝してますから。美夏ちゃんと言えば、現代社会の便利な生活を覚えて、野生に戻れなくなったんでしょうか。なぜか、ず~っと私の部屋にいます。
 たまに外出すると、迷子になって何日か戻らない事は有りますけど。コンビニって所に行ってくると言いながら、帰って来たのが三日後とかね。「私の部屋ってそんなに楽しい事ある?」って思いたくなる位に、引き籠ってます。
 
 そもそも、私自身がこの二人の事をよく知らないんだって、この間のサバイバルゲームで思い知らされました。色んな人に二人の事を聞かれたんですが、答えられた事は少なかったです。

 実際には二人共に私と同い年で、裕子ちゃんは神奈川の出身で、美夏ちゃんは私と同じ道内出身って位でしょうか。
 勿論、裕子ちゃんが『食欲魔王』とか『わがまま大王』なんて、思い浮かんでも他人には言わないですけどね。だって、ただの陰口ですもん。
 
 そう思うと不思議ですね。結構一緒にいる感覚でいましたし、仲が良いと思っていたのに、いざ聞かれるとその程度しか浮かんで来なかったんですよ。
 
 そう言えば、裕子ちゃんとは何がきっかけで出会ったんだっけ? う~ん、よくおもいだせないな。いつの間にか居たんだよね。
 別にホラーでもファンタジーでもないですよ。良くある話でしょ、いつの間にか仲良くなって、ずっと一緒にいるなんて。
 でも、裕子ちゃんが謎多き美女ってのは間違いなさそうですね。異次元胃袋だし。いつか大食い大会みたいなのに出て、賞金を貰ってくるといいんですよ。
 
 わーきゃー騒ぐ声が、段々と遠くなっていく様です。あぁ、寝落ちしそう。
 後片付けはよろしくね、お掃除の妖精さん。二人がうるさいだろうけど、モグ達の事はよろしくね、飼育の妖精さん。

 そして私は、ウトウトと眠りに落ちたようです。フワフワした雲みたいな所に居ます。おばあちゃんに逢った時の場所と似てますね。あぁそっか夢か、夢だね。それか噂の異世界召喚か。まさかね。夢の方が現実的って、なんか矛盾した日本語ですけど。
 
「夢ではない。ここは人間が立ち入る事が出来ない、我らの領域だが其方は特別だ。こっちに来るがよい」

 なんか、前にも聞いた事があるような響いて来ます。この間の、ちょっと威圧感が有る声です。またですか、そうですか。どうせ夢なんです、今度は無視しちゃいましょう。

「早く来いと言っているのが聞こえないのか?」

 うるさいですね。私の夢なんだから、勝手にさせて欲しいです。いつも裕子ちゃんと美夏ちゃんに振り回されてるんですから。

「いつまでも、来ないと怒られるよ。ぼく知らないよ」

 なんだか、聞きなれた声もしてきます。でも、気のせい、気のせい。

「早く来なさい! お仕置きするわよ!」

 あぁ、なんだかもうって感じです。なんでこんなにリアルなんでしょう。夢なのに、私の夢なのに、なんであの二人に侵食されなきゃならないでしょう。
 
 仕方なく私は、声がする方に歩いていきます。仕方なくですよ。少し歩くと途端に景色が変わります。さすが夢の中です。何もなかった真っ白い光景が、途端に宮殿みたいな風景に早変わりです。
 
 おぉ~っと、私は感心しながら歩きます。ずんずん歩きます、どんどん歩きます、ってどこまで歩けば良いのさ! 遠すぎるんでないかい?

「つべこべ言わないで、早く来れば良いのよ。走りなさい!」

 夢の中でも、わがままなんですねあの子は。流石に疲れて私がトボトボと歩いていると、雪の妖精さんが姿を現しました。そして、ぎゅーって抱き着いてくれました。
 
「久しぶりね。元気だった?」

 雪の妖精さんは、笑顔で頷いてくれます。そう言えば、私が見た初めての妖精さんが、雪の妖精さんでしたね。この笑顔で疲れが癒される気がします。
 
 少し元気になった私は、雪の妖精さんを肩に乗せて歩きます。しばらく歩くと、お掃除の妖精さん達とお料理の妖精さん達が、目の前に現れました。
 
「あなた達も来ちゃったの?」
 
 夢の中とはいえ、妖精さん達と会えるのは嬉しいです。お掃除とお料理の妖精さん達は、私の後に続いて小さい足をチョコチョコ動かして歩いています。

 この感じだと、妖精さんが大集合だったりして。そんな私の予感は、こんな時ばっかり大当たりするんです。まぁ私の夢ですし、きっと私の希望通りになったんですね。
 
 私の歩く先には、妖精さん達が待っていました。
 お勉強の妖精さんに四大元素の妖精さん、今まで出会った妖精さんが次々と現れては、私と一緒に歩いていきます。宮殿っぽい中を、妖精さん達とお散歩している気分で、とっても楽しいです。
 妖精さん達もすっごく楽しそうで、スキップしてます。そんな妖精さん達の姿を見ると、嬉しくなってしまいます。

 かなり長い道を歩いた気がします。ようやく開けた場所に辿り着きました。でも疲れた体を、休ませる暇はありませんでした。

 開けた空間の中央には、玉座の様に偉そうな椅子が鎮座してます。その椅子にどかっと座る人物は、いつもの調子で私に話しかけてきました。

「遅いわよ! 何してんのよ!」
「裕子ちゃんこそ、私の夢で何してんの? 馬鹿なの?」
「馬鹿なのはあんたよ! 見なさい!」

 裕子ちゃんが指を差した先では、妖精さん達が一列に揃って、頭を下げてました。
 うん、可愛い。ってそうじゃなくて、何してんの?
 
「ついに、明かす時が来たのよ!」

 ドヤ顔の裕子ちゃんのほっぺを、引っ張ってやりたいです。ついでに、素知らぬふりして隣に立っている、美夏ちゃんのほっぺも。
  
「いや、夢の中で何を明かすの? 馬鹿なの?」
「馬鹿はあんただって言ってんの! あんたの周りの子達を見てわからない? この状況を見てわからない?」
「何が? 私も、はは~って頭を下げた方が良い?」

 裕子ちゃんは、何か溜息をついている様です。夢の中なのに、生意気ですね。
 
 そして裕子ちゃんは、徐に立ち上がると、クルっと回ってポーズを決めました。美人さんがやらかすと、ちょっと痛いですね。
 
「何を隠そう! 私は妖精の王様よ!」

 うん、さすが夢です。訳がわからないです。

「あんた、信じてないでしょ!」
「だって、裕子ちゃんは人間でしょ? そもそも、王様なら男でしょ? 裕子ちゃんは女の子じゃない」
「この姿は、あんた用に実体化した仮の姿よ。妖精に性別なんて無いし」
「実体化? 嘘だぁ~! だって、裕子ちゃんはお父さんもお母さんも神奈川に居るでしょ?」
「あんなの作り話に決まってるじゃない!」
「それじゃあ、美夏ちゃんは?」
「ぼくは、王様のサポート的な何かだよ。これでも普通の妖精より偉いんだよ!」
「うわぁ~、何その適当な感じ。むしろ美夏ちゃんに、サポートが必要な気がするんだけど」
「酷いよ! これでもぼくは、立派に仕事をしてるんだよ」

 とてもそうは思えませんけど。まぁどうせ夢なんです、乗ってあげましょう。その内、ぼろを出すはずですし。

「それで王様は、何のために私を呼んだの?」
「私の正体を教えてあげようと思って、わざわざ呼んであげたのよ」
「へぇ~。それで王様はいつもそんな口調なの?」
「あんたに合わせてあげたのよ! 感謝しなさいよね! いつもはもっと畏まってるんだから!」

 言い訳くさいですね。もう、ぼろを出し始めましたよ。

「最初に裕子ちゃんを部屋に呼んだのは、お料理の妖精さんの料理を披露した時だよね。あの時、別の人を招いてたら、裕子ちゃんとそれほど仲良くなって無かったかもしれないよ。そんな偶然ってあると思う?」
「コミュ障のあんたが、自宅に呼べる友達は私くらいのもんよ」

 うぐっ、追い詰めたつもりで、痛い所を突かれました。誤解しちゃ駄目です、私は友達が居ない訳じゃないです。
 そもそも裕子ちゃんが妖精さんって、可愛くないです。だけど、これで止めです!

「裕子ちゃんが、妖精さんの王様なら、何で妖精さんは裕子ちゃんを避けるの?」
「馬鹿ね、それは敬意の証じゃない。だって、私は王様なのよ。偉いのよ! 普通の妖精が、私に軽々と話しかけられるはず無いじゃない! あんたは、国王的な人と会って仕えろって言われたら、どうするのよ?」
「すっごく緊張するから、嫌だね」
「それと一緒よ」
「ちなみに、あんたがおばあちゃんと逢えたのは、私のおかげよ」
「へ? あの時の声は渋いおじさんみたいだったよ」
「だから、私に性別なんてないんだって。声は変え放題よ」
「う、嘘だぁ~。王様ってそんな事も出来るの?」
「そうよ。すごいでしょ!」

 私は妖精さん達を見回しました。妖精さん達は、頷いてました。嘘じゃないみたいです。
 何だか悔しいです。やり込めるつもりだったのに。

「あんたがもたもたしてるから、時間が来ちゃったじゃない。じゃあね」

 光が溢れていきます。とても眩しくて、私は目を瞑りました。気が付くと、私は自宅の床で寝ていました。ミィが私の顔をぺろぺろと舐めています。心配してくれてるの? 優しいねミィ。

 相変わらず、裕子ちゃんは私のベッドを占領してますし、美夏ちゃんはイビキをかいてます。
 狭いワンルームの部屋では、お掃除の妖精さんがせわしなく動き回り、お料理の妖精さんが朝食の用意をしています。音楽の妖精さん達が、爽やかな感じの音楽を奏でて、心地よい朝を演出してくれます。私は少し伸びをして、呟きました。

「変な夢だったな~」
「夢じゃないわよ」

 振り向いたら、裕子ちゃんが起きて私を見てました。

「もしかして、本当に王様?」
「当たり前でしょ! 妖精だって見えてるわよ」
「それでぼくは、大臣的な何かだね」
「いや、美夏ちゃん。さっきは大臣とは言って無かったでしょ?」
「細かい事は、気にしない! だってぼくたちは、君と一緒に居たいだけなんだから!」

 裕子ちゃんが頷いています。妖精さん達がみんな頷いています。私は沢山の笑顔に囲まれています。まさか、この部屋に居る全員が、妖精さんだとは思いませんでしたけど。
 
 なんで私なんでしょう。でも、特別って言われると悪い気はしません。裕子ちゃんと美夏ちゃんが妖精さんなのは、まだ納得は出来ないですけど。
 それでも、今までの不思議満載な日々に比べれば、あんまり気にしなくても良い事かもしれません。
 何だかんだで毎日は楽しいですし。それをくれたのは、妖精さん達なんですから。だから私は、ありったけの笑顔でみんなに応えました。
 
「ありがとう。これからも、よろしくね」

 裕子ちゃんと美夏ちゃんには、これからも振り回される気がします。それでも、妖精さん達と暮らせる私は、世界一の幸せ者です。