美夏ちゃんに乗せられて、私達は埼玉県所沢市のとある場所に来ております。某アニメ映画の舞台となった場所の近くらしいです。なぜそんな所に来たのかって?
 それは何日か前の夕食での事でした。

「ねぇ。週末はみんなで出かけようよ!」
「良いわね美夏」
「二人とも、週末の予定は無いって言ってたでしょ。ぼくはこの最近は引き籠ってたから、体を動かしたい気分なんだよね」
「いいけどさ。美夏ちゃんは、どこに行く予定なの?」
「それは着いてのお楽しみだよ」

 美夏ちゃんは、明るい笑顔でニコッと笑います。裕子ちゃんは、何か訳知り顔でニヤリと笑います。あぁ、何だか性格が顔に出てるようですね。

「じゃあ決まりだね! 当日は朝早く出発するから、寝坊しないでね」
「はいはい、起こすのは任せたわよ美夏」
「え~、自分で起きなよ裕子」
「ぐだぐだ言わないの! 言い出しっぺが起こしなさいよ! どうせ道中は私が運転するのよ! あんたに運転させると、異世界にでも迷い込みそうだし」
「ぼく、そんなに酷いかなぁ」
「自覚が無いって最悪ね。上京する時に千歳じゃなくて、函館に行ったのは何処の誰よ! そこから迷いに迷った挙句、働きながら一年以上かけて上京したのは何処の誰よ!」

 美夏ちゃんの凄い過去が発覚しました。まぁ美夏ちゃんならやりかねないです。否定できないのが、残念な美夏ちゃんです。  

 それと相変わらず、俺様気質の裕子ちゃんです。
 何だかんだ言って、レンタカーの手配やら運転やらを買って出る所は、面倒見が良いのです。どちらかと言えば、姉貴分って感じでしょうか。私なら、あんなめんどくさいお姉ちゃんは欲しくないですけど。

 そもそも、私は行くなんて言って無いんですけど、完全に巻き込まれました。そして、当日の朝がやって来ました。
 いや、朝じゃないですね。

「ねぇ、いま何時だと思ってるの? 朝じゃないよ夜中だよ! 何処に行く予定なの?」
「近所迷惑だから、うるさくしちゃ駄目だよ!」
「あのね、美夏ちゃんに言われたくないよ!」
「じゃ、ぼくは裕子を起こしてくるね」

 じゃって、今は丑三つ時なんですよ! 幾ら何でも早すぎませんか? キラッと光る美夏ちゃんの白い前歯に、少し腹が立ちます。
 それと、美夏ちゃんからジャージ的な何かを渡されました。これを着て何をするというのでしょう? と~っても嫌な予感がします。

 そんなドタバタの中で、ペチとモグが走り出しました。今回は、子猫達を連れていきません。「お留守番なのよ」って言うと、ミィが『またなの?』みたいなウルウル眼で見てきます。
 ごめんねミィ。それと飼育の妖精さん、この子達の面倒はよろしくね。

 因みに今回ついてくる妖精さんは、土の妖精さんとお仕事の妖精さんにお花の妖精さんです。駄目って言っても勝手に着いて来る、予防医療の妖精さんを除いてですけど。
 後の妖精さん達は、みんなお留守番だそうです。そう美夏ちゃんが言ってました。何の狙いがあるんでしょうか?
 そんなこんなのバタバタを乗り超えて着替えて外に出ると、腕を組んだ裕子ちゃんが仁王立ちしてました。
 
「おっそい! あんた支度にどれだけ時間をかけるのよ!」
「いや、私も女だし!」
「早く乗りなさい! 行くわよ!」
「眠いよ、裕子ちゃん」
「私はこれから運転なのよ! 寝たらぶっ飛ばすからね!」

 結局、私は車の中でぐーすか寝ちゃいましたよ。仕方ないでしょ! 途中で裕子ちゃんから、ご褒美という名の拳骨を頂きました、理不尽ですグスン。

 どの位走ったのかわかりませんが、段々と窓の外には広い畑が見えて来ました。この辺りは農業が盛んなのでしょうか? 裕子ちゃんが畑道通って、一軒の農家っぽい家の敷地内に入っていきます。

 なして、そんないかにも農家みたいな敷地内に車を止めるのさ。まさか、ここが目的地? まだ日が昇ってない様な時間から、お出迎えされます。
 出迎えてくれたのは、腕っぷしの強そうな無精ひげのおじさんと、逞しい感じのおばちゃんです。あ~、何だかわかったぞ、何て言うか真実はいつも一つみたいな。

「やっほ~! おじちゃん、おばちゃん!」
「美夏ちゃん久しぶりね。そっちの二人もよろしくね」
「よう美夏! 今日の手伝いは、二人おまけが着いて来るって言ってたな! そっちのひょろっちいのは、大丈夫なのか?」

 おじさんの目線は確実に私を捉えてますね。大丈夫じゃないですよ。もしかしなくても、これって農家のお手伝いじゃないんですか?

 チラッと見渡すと、土の妖精さんとお花の妖精さんが、ワーイって感じで畑の方に飛んでいきました。きゅうりやらナスの前で、万歳を繰り返してます。可愛いというより、シュールです。
 こんな場所に、よりよって土の妖精さんを連れてくるなんて、事件になっても知らないよ。
 
 土の妖精さんは、ひとしきり実ってる作物を愛でた後に、畑の土に潜っていきました。お花の妖精さんは、よくわからない謎の踊りをしています。お仕事の妖精さんは、腕まくりして農作業を教える気マンマンです。
 美夏ちゃんは、おじさん達と談笑してます。談笑には、裕子ちゃんも混じってます。あ~、逃げられなそうもないです。

 そして、なし崩し的に農作業が開始されました。早朝の作業は、色々収穫だそうです。裕子ちゃんは、美夏ちゃんから色々教わってます。私にはと言えば、お仕事の妖精さんがマンツーマン指導してくれました。
 
「おめぇ、思ったよりもましそうだな。でもよぅ、ちゃんと食ってんのか? 倒れんじゃねぇぞ!」

 おじさんが私の肩をバシッと叩いて、笑いながら言いました。思わずむせて、きゅうりを落としてしまいました。
 時折、土の妖精さんが畑の中からムクっと顔を出します。なんだかいい笑顔で笑ってます。土の妖精さんは、この畑が気に入った様です。いくら気に入っても、余計な栄養とか要らないからね。
 
 お花の妖精さんは、畝の横を歩きながら踊り続けてます。今回の要注意妖精さん、その二です。
 なんだかやらかしそうで、気が気じゃないです。って言ってる間に、何も無い畝からぴょこっと芽が……。

「わぁ~! ストップ、ストップ!」
「何ようっさいわね!」
「裕子ちゃん! 一大事だよ!」
「何よ! せっかく乗って来た所なのに、邪魔しないでよ!」
「あ~、もう!」

 私は、お花の妖精さんに近寄ると、謎のダンスを強制的に止めさせました。お花の妖精さんは、少し悲しそうな表情でしたが、これ以上の被害は要りません。
 私のドタバタを、美夏ちゃんは横目で見て笑ってました。いたずらっ子か!
 
 私は、土とお花の妖精さんを捕まえて、お願いしました。土下座に近い感じでね。

「お願いだから、土に栄養をあげたり、作物の芽を出したりしないで」

 土とお花の妖精さんは親指と人差し指で、ちょっとだけみたいな仕草をします。
 
「ちょっとも駄目!」

 妖精さん達は泣き始めました。そりゃそうですね。恰好の遊び場を取り上げられたんですから。でも、農家の人達に迷惑をかける訳にはいきません。
 
「ちょっと位は問題ないんじゃない?」
「呑気なの美夏ちゃん! この子達にとって遊びでも、大変な事が起きるんだよ!」
「大変って?」
「出るはずがない、植えたばかりの芽が出たり、採れた作物が超おいしくなったりだよ」
「良い事じゃないの?」
「言い訳ないでしょ! 急に作物が超おいしくなったり、想定外に土が良くなったら、後で困るのは農家の人なんだよ!」
「まぁまぁ。この子達は泣いてるし、大目に見てあげなよ」
「何が起きても知らないよ。ここの農家さんとお付き合いが有るのは、美夏ちゃんなんだからね。ちゃんとフォローしてね」
「うっさいわね、あんた達! 何しにここに来たと思ってんの! 仕事しなさいよ!」

 美夏ちゃんと話をしていたら、裕子ちゃんに叱られました。なんでしょう、この理不尽は。ムカつきますね。
 
 土とお花の妖精さんは、泣き止んで再び走り始めました。元気はつらつです。お勉強の妖精さんは気にも留めずに、早く農作業に戻れと言わんばかりの態度です。
 予防医療の妖精さんは、お口をモグモグさせてます。うん、あなた達はいつも通りなのね。

 八時くらいになって、やっと朝食です。私は肉体の疲労よりも、精神的にやつれた気分です。
 
「労働の後は、ご飯が美味しいわね」

 裕子ちゃんの食欲は限界を知りません。流石に農家のおじさん達が驚いてました。でも裕子ちゃん、少しは遠慮を知ろうね。いくら、いっぱいお食べって言われてもさ。
 
 私は私で食事もそこそこに、土とお花の妖精さんが気になって仕方ありません。
 何をしでかしてるか、とっても心配です。植えたばかりの夏野菜が実っていたら、責任とって収穫しよう。うん、そうしよう。
 後は……。うん、知らない。

 ただね、予感っていうのは悪い方に当たるもんです。朝食が終わって少し休んでから、畑に戻ったら。大豊作ならぬ、超豊作な状態になってました。たわわに実る野菜、野菜、野菜。いや、ほとんどこれから育つやつだよね。

 そして、農家のおじさんとおばさんは、腰を抜かして倒れました。取り急ぎ手分けして二人を抱えて家に戻り、寝かしつけました。二人の看病に、裕子ちゃんを残して、美夏ちゃんと私は大収穫祭です。
   
 もうなんて言うか頑張りました。ひたすらもぎました、それこそ証拠隠滅です。トマトやらピーマンやらトウモロコシやら、色々とです。
 一個だけトマトを齧らせてもらいましたけど、甘い事この上無いです。糖度はどの位だって思う位です。
 
 農家のおじさん達は、昼過ぎ位に目を覚ましましたが、収穫された野菜の山を見て、再び倒れました。そりゃあそうでしょうよ。これが普通の反応ですよ。
 
 この後もごたごたは続きましたよ。説明をさせられて、正直に訳を話して、すっごく叱られました。「馬鹿にすんじゃねぇ」みたいな感じで。結局、自宅に戻ったのは夜中でした。
 すっごく疲れました。
 お土産にって貰った野菜は、とってもおいしかったです。それと妖精さん達は終始ご機嫌だったので、良しとしましょう。