先日起きた、妖精さん達の集団外出事件をきっかけに、私はちょっぴり疑心暗鬼になりました。何もかもが夢じゃないかって気持ちが、拭えずにいたんです。
 そんな事を裕子ちゃんに話したら、爆笑されました。笑った挙句に、色々と言われました。

「あんたさぁ、こないだから暗い顔してると思ってたら、そんな事を考えてたの? 馬鹿じゃない?」
「だって、いきなり居なくなったんだよ!」
「居なくなったから夢だって? 私の存在も夢だって言うの?」
「裕子ちゃんが悪いんだよ。不安だったんだよ」
「何それ! 人のせいにしないでよね!」
「美夏が居たでしょ! それに、ちゃんとお土産を買ってきたでしょ!」
「そうだね、裕子が全部食べたけどね」
「いや、美夏ちゃんも食べてたよね」

 そうなんです。確かにお土産を貰いました。どこの名産か全くわからない、謎なお菓子をね。
 結局、美夏ちゃんと裕子ちゃんが食べちゃいました。良いんですけど、謎なお菓子ですから。
 美味しそうとは思えずに、私は手を付けなかったんですから。謎な物を食べたら、か弱い私の胃腸がやられちゃいます。
 
 それはともかく、あれから何だかフワフワして、地に足が着いていない感じがするんです。大学に居る時やバイトをしてる時、自宅に居る時だって、何をしていても何だか違和感がある様な。そう、夢の中にでもいる様な、気分になっているんです。

 そんなはずはないんです。だって確かに居るんです。妖精さん達は、ここに居て触る事が出来るんです。
 お料理の妖精さんが作るご飯は、とっても美味しいんです。お掃除の妖精さんは、せわしなく動き回ってるんです。ペチ達と一緒に、飼育の妖精さんが戯れてるんです。音楽の妖精さんが、素敵なメロディーを奏でてくれてるんです。

 これが夢なはずがないんです。

 でもあの時、考えてしまいました。この幸せな日常が、夢だとしたらって。むしろ、妖精さんが居ない方が当たり前なのだとしたらって。全ては、私が作り上げた幻想であったとしたらって。

 きっと私は、寝ていて。目が覚めたらお母さんが居て。私はまだ子供で。お母さんにこう言うんです。

「変な夢を見たさ」

 でも、そんな訳がないです、夢じゃないんです。私には二十一年の間、生きて来た思い出が有ります。色々な経験が今の私を作っています。
 二十年そこそこの人生の中には、いつも妖精さんが居ました。妖精さんは、私の数少ない大切なお友達なんです。

「ねぇ、裕子ちゃん。妖精さんって何だと思う?」
「はぁ? 知らないわよ! お化けか異次元生命体でしょ! あんたの部屋はいつもホラー現象が起きてるんだし!」
「そっか。ポルターガイストは、裕子ちゃんも認識してるんだよね」
「美夏ちゃんは、どう思う?」
「僕にはわかんないよ」

 私は少しため息をつきました。すると、妖精さん達が集まってきて私にしがみつきました。そこにある確かな現実を、確かな感触を感じます。
 
「大丈夫だよね。夢じゃないよね」

 妖精さん達は、みんな揃ってコクコクと頷いてくれました。私は少し涙が出ました。
 私の不安な気持ちが伝わったのか、妖精さん達がこぞって涙を拭ってくれました。妖精さん達は優しいです。

 そうです。これが夢だったら、人生が全て夢です。きっと、それは否定しちゃいけない事なんです。

 確かに妖精さんは、非現実的な現象かもしれません。仮に、これが夢であったとしても、感触はしっかりとあります。妖精さんは、確実にここに居ます。この優しい存在を、この優しい笑顔を無かった事にしちゃいけない。漠然とですが、そんな気がしました。
 
 そんな事を思った瞬間、少し部屋が光りました。少しの間、私は目を閉じてました。目を開けると、笑っている裕子ちゃんと美夏ちゃんが居ます。

「ねぇ二人とも。今なんか光らなかった?」
「僕は気が付かなかったよ」
「気のせいじゃない? まぁあんたは、脳みそがお花畑な方が似合ってるわよ」
「裕子ちゃんって、いじめっ子だよね」
「馬鹿なの? 私ほど優しい人はいないでしょ? こうやってあんたの下らない相談に乗ってあげてんだし」
「いちいち冷たい感じなのは、ツンデレさんだから?」
「誰がツンデレなのよ!」
「それで結局は、私の事が好きと」
「だ、誰がよ! ぶわぁ~か!」
「裕子ってさ、思春期の男の子みたいだね」
「いや、美夏ちゃんに言われたくないと思うよ」
 
 プリプリ怒って、裕子ちゃんは部屋を出ていってしまいました。でも五分くらいしてから、帰って来ます。
 
「あらぬ誤解を受けたわ! 屈辱だわ! 飲み明かすわよ! ご飯を作りなさいよ!」
「私が?」
「あんたが作ってどうすんのよ! 妖精とやらに作らせんのよ! つまんないボケをかますんじゃないわよ!」

 裕子ちゃんは日本酒を片手に、仁王立ちしてます。えぇ、この得も言われぬ存在感は、夢であってたまるかって感じですね。

 裕子ちゃんの食い気に、お料理の妖精さんが反応し、腕まくりをして鼻息を荒くしてます。やる気満々です。
 お料理の妖精さんってば、裕子ちゃんと相性が良いのでしょうか。いやいや、裕子ちゃんが単に食欲魔人なだけです。だって、裕子ちゃん所の子になるって聞くと、泣いて嫌がるですから。

 そんなこんなで、酒盛りが開始しました。珍しく私も飲んじゃいました。珍しくないって? 嫌ですね。私は飲んだくれませんよ、滅多に。

 裕子ちゃんは、お肉をガツガツ食べながら、日本酒を飲んでました。ご飯まっしぐらな裕子ちゃんを見ると、いつもの日常を感じるって不思議ですけどね。そんな裕子ちゃんを横目に、妖精さん達との山手線ゲームはとても楽しかったです。

 モグとペチも何故だか盛り上がって、走り回ってました。騒がしいです、悪乗りする若者の図って感じです。でも楽しい日常がようやく戻って来た感じがします。

「ありがと」
「何がよ!」
「何でもないよ!」

 聞こえなくても良いんです。だって、何となく伝えたかっただけですし。
 
「みんな、ありがと~!」
「いやだから、なにがよ!」
「元気になったんなら、よかったじゃない」

 楽しい夜は更けていきます。最高の瞬間を、私は心の底から楽しみました。もう、不思議でも何でもいいです。これが私の現実なんですから。