ひゃっほ~! いきなりなテンションで、ご挨拶です。
 いや、まあなんて言うかその。今日は私の誕生日なんですよ、へへへ。 

 誕生日と言えばケーキですよ。お祝いされるのかって? いやいや、こんな日に限って裕子ちゃんはデートですって。誰と行くんでしょうね? そもそも行く相手がいたんですね。うらやましいったら。
 ちなみに美夏ちゃんはアルプス山脈に旅立っているそうです。納得です。なんたって野生児ですし、不思議じゃないでしょ。

 あ~もう! さっきからボッチボッチうるさいですよ! ボッチ誕生日とか言っちゃ駄目です。ボッチでケーキとも言っちゃ駄目です。良いんですよ。私には妖精さんがいるんですもん。
 そして、この日の為に準備をしてきました。お料理の妖精さん特製のスペシャリテ、その数々が披露されるのです。
 
 君っていくつ? ってそれはナンパですか? 古いですね。まぁ良いです、なんと私は今年で二十一歳になったんです。あっと言う間に大学三年生です。
 早いですね、そして今年は就職を意識しないとって、まぁ今日の所は忘れましょう。なんと言っても、豪華料理にケーキですよ~!

 名店のシェフの腕を盗み見た、もとい再現した数々の料理を想像しただけで、お口の中で涎がドゥワってなりますね。
 そして私も頑張りました。お料理の妖精さんが厳選した、お取り寄せ食材を集めまくりました。久しぶりに市場にも行きました。ふぅ~。大変でしたよ。
 
 それでは、本日のメニューです。
 食前酒は、スーパーで買ったシャンパンです。お料理の妖精さんに土下座して、妥協してもらいました。
 そもそも、私がリクエストしたのは、スープとメインにケーキだけなんですよ。食前酒なんてリクエストしてないんです。
 だって、私はお酒ってあんまり飲まないですし。お料理の妖精さんが泣いて頼むから、仕方なく買ったんですよ。

 スープの材料に、一番お金がかかったかもしれません。それと時間もね。
 お料理の妖精さんは、特に気合を入れて作ってました。ブイヨン作りから始まって、コンソメ作り。そして『ダブルコンソメ』へと進化を遂げるのです。

 部屋中に立ちこめるいい匂いは、風の妖精さんがきっちりお外に出します。勿論、お隣に住んでいる裕子ちゃんにばれない様に、念入りに気を付けて。
 あぁ、そう言えばデートで出かけてるんだった。それなら気にしなくても良いよね!

 実は、もう少し奮発しました。生ウニを取り寄せたんです。
 コンソメ作りの過程で少し手を加えた、コンソメゼリーを使って、逸品が出来上がりました。オードブルは『生ウニのコンソメゼリー寄せ、ホワイトアスパラガスと共に』です。

 ウニとホワイトアスパラガスは、母の知り合いという伝手を使って、比較的に安く手に入れて、送ってもらいました。だけどね、メイン料理はそうはいかないんですよ。
 
 ネットで、たまたま見てた有名店のメニューを見てて、お料理の妖精さんと意気投合しました。
 その名も『鴨フィレ肉のロースト!』です。やばそうでしょ! これしか無いよねって、お料理の妖精さんとハイタッチしました。
 うん、これも素材はそこそこ良いお値段がしました。妖精さんの手によって、素材は最高の逸品に仕上がります。あぅぅ、涎が……。
  
 最後はケーキですよ、ケーキ。むしろこれが、今日のメインじゃないでしょうか。『季節のフルーツ盛りだくさんのフルーツタルト』です。
 イチゴやキウイに甘夏などが所狭しと積まれたタルトは、目にも鮮やかで食べるのが勿体ない位です。

 これでは裕子ちゃんの事を、食欲魔王と言えなくなっちゃいますね。
 いや、良いんです。だって、誕生日なんですから。
 
 音楽の妖精さんが奏でるメロディーに合わせて、みんなでハッピーバースデーの歌を合唱します。妖精さん全員が私の誕生日を祝ってくれます。ペチ達もニャ~って鳴きながら、参加してくれます。

 と~っても嬉しいです。誰ですか、ボッチとか言った人! こんなに沢山の妖精さんに囲まれた誕生日なんて、私以外にいないでしょ!
 最高の幸せですよ。

 いちおう言っておきますけど、ケーキにローソクとか、流石にやらないですよ。ふーって消したりしないですよ。勘違いしないでよね、フン。

 気を取り直してお料理の味ですが、もう言わずもがなですよ。筆舌に尽くしがたいとは、この事を言うんですね。
 オードブルは、コンソメが生ウニの味を上手く引き立てており、ホワイトアスパラガスがこれまた絶品でした。
 深い味わく香高い、美しい琥珀色のダブルコンソメスープは、目と鼻と舌の三つを喜ばせてくれます。ゼリー寄せにしたコンソメと違い、染み入る様な旨味が口一杯に広がります。
 メインの鴨ローストは、もうほっぺがムニョって落ちそうでした。ふっくらと柔らかく深い味わいの鴨肉が、赤ワインをベースに作ったマデラ風のソースとマッチして、更に旨味を引き立てています。
 ケーキも最高でした。瑞々しい旬のフルーツの芳醇な甘さと程よい酸味が、これでもかと押寄せてきます。
 
 もう満腹です。すっごく大満足です。

「妖精さん達、ありがと~! 最高の誕生日だよ~!」

 と喜んだのもつかの間でした。ガチャっとドアを開ける音と共に、魔王がうちにやってきます。言わずとしれた裕子ちゃんの襲来です。

「美味しそうな匂いさせてるじゃない。私のも有るんだよね」
「あのさ、裕子ちゃん。これ私の誕生日用だから。特別な日のごちそうだから」
「ふ~ん、おめでと。で、私の分は?」
「って裕子ちゃんデートは?」
「あんな男どうでも良いのよ。それより早くご飯出しなさいよ」
「いや、材料なんて」

 裕子ちゃんに脅されながらお料理の妖精さんを見やると、コクコクと頷いています。

「あぁそう。出せるみたい。ヨカッタネ」
「何よ不満そうね。おめでとうって言ってあげたじゃない」

 そう言って色々食べ尽くし、裕子ちゃんはお腹を擦りながら帰っていきました。最後の最後で、色々台無しにされた気分です。
 一人でごちそうを食べようとした私が悪いのですか? あぁそうですか。誰か慰めて下さい。ぐすん。