夢って見ますよね。そりゃあそうですね、誰だって見ますもん。でもね、大抵の場合は目が覚めると覚えてないんです。
怖い夢なら忘れちゃっても良いんですけど、とっても良い夢だったなら覚えていたかったりしませんか?
そういう私は、この前に少し変な夢を見ました。どう変かって聞かれると一言では答え辛いです。何と言うか夢というにはリアルな感覚が有って、でも明らかに現実とは違って。
それを何と説明したらいいのか……。だからなのか、目が覚めた後もはっきり覚えているんですよ。
そこは真っ白い何かが広がる場所でした。雲の様にふわふわしてて、でも足元はしっかりしてて。それが何かはわかりませんが、不思議と安心する気がしてました。
気がついた時にはそんな場所にいて、何処からか声が聞こえて来たんです。
「……ずく、……しずく」
「なした? おかあさん? 朝食はパンがいいな」
「お母さんじゃない。寝ぼけているのか?」
「誰? お兄ちゃん?」
「お前に兄弟はおらんだろ!」
「そういえばそうだった」
「それで? 何の用?」
「用と言われても、大した用はないんだが」
「そっか。じゃあね」
「待て待て! わざわざ会いに来たんだ、じゃあねは無いだろ」
寝ぼけているのかって、そりゃあ……ってあれ? 所で、私は何をしているんでしょう。よくわかりません。
「私の声は聞こえていそうだな。それなら話は早い」
「充分に回りくどい感じがするけど」
「私は妖精の王だ」
「ふ~ん。妖精さんにも王様っているんだ。いつもお世話になってます」
「いや、こちらこそ。愛し子達が世話になっている」
「それで、その王様がどうしたんです?」
「いやなに。お主に会いに来ただけだ」
「そうですか。すみません、普通の一般人で」
「愛し子達が見えるのだ。一般人ではなかろう」
「そんな、そんな。私なんて、そこいらにいる普通の大学生ですよ」
「待て、そんな日本人特有の謙遜は要らん」
う~ん、この王様って人は何をしに来たんでしょうか? そもそも声は聞こえてきますが姿は有りません。この空間には私独りだけです。
結局のところ、これってどんな状況なんだろう? 私は姿の見えない『王様』と話しながら、そんな事を考えていました。
そうやって私が暫く黙って考え込んでいると、また声が響いてきます。
「愛し子が世話になっている。お前の願いを一つ叶えてやろう」
更に言っている事がわかりませんよ。願いを一つ? それって魔法のランプ? おとぎ話じゃないですか。いや、妖精さんって存在が既におとぎ話みたいなもんですね。
じゃあいっか……。
って訳に行くか! 冷静になれ私! 姿が見えない誰かに『願いを一つ』なんて怪しすぎますよ。オレオレ詐欺より不自然ですよ。
でもですよ。本当に願いが叶うなら、私はいま何をしたいんでしょうね? 生活は妖精さんのおかげで充実してますし、お金にも困ってませんし、就職はまだ先の話ですし。
「お願いって言われましてもねぇ~」
「何か有るだろう。例えばお前の祖母とか」
あぁ、そうだ。もう、おばあちゃんとは会えないんだ。
いつも色んな話を聞かせてくれて、色んな事を教えてくれて、テストで百点を取った時は自分の事の様に喜んでくれたおばあちゃん。共働きだった両親の代わりに、いつも一緒にいてくれたおばあちゃん。
家の手伝いをした時は、頭を撫でてくれました。妖精さんの話しをしても、馬鹿にしなかったのは、おばあちゃんでした。私が卑屈にならずに済んだのは、おばあちゃんのおかげだと思います。
上京の際に空港のロビーで少し緊張する私を、おばあちゃんは柔らかい笑顔で見送ってくれました。あの笑顔が、上京する私に勇気を与えてくれました。
最後は八十八歳の大往生で、感謝してもし足りなくて。もし、もう一度逢えるなら「ありがとう」って伝えたいです。
でも、それが無理なのはわかってます。私だって馬鹿じゃないです。そんな事を考えても無駄なんです。死んだ人は蘇らないし、私に霊能力なんてないです。いたこみたいな能力もありませんし。
「もう一度、おばあちゃんに逢いたいな」
「わかった。彼の者の失われし時を、いま一度繋げよう」
王様がそう言うと、私は光に包まれました。私は眩しくて目を閉じます。目を開けると先程とは違って、辺りは真っ暗闇でした。私の前には一本の道が真っ直ぐに続いてて、その道だけが光に照らされていました。
私は驚いて、暫くぼぅっとしてました。それからどの位の時間が経ったのかわかりません。やがて、道の先から人影が現れました。それは段々と近付いて来ます。そして徐々に顔がはっきり見えてきます。
忘れる訳がありません。私はその懐かしい笑顔に、少し言葉を失いました。
「元気そうだべな。めんこくなったべや」
「へっ……、おばあちゃん?」
「ばあちゃんさ。忘れたんかい?」
「おばあちゃん、おばあちゃん!」
私は思わず、おばあちゃんに飛びついて泣いてしまいました。
「なぁ~した? そんな泣いて。あんたいっつも泣いとったね~。変わらんね~」
「したって、おばあちゃん」
余りの事に、私は涙を止める事は出来ません。
おばあちゃんは、そんな私をぎゅっと抱きしめてくれました。言いたい事はいっぱいあるのに、胸が詰まって言葉になりません。
ただ、涙だけが止めどなく溢れて来ます。私が落着くまでずっと、おばあちゃんは抱きしめてくれました。
それから私は、おばあちゃんに色んな事を話しました。妖精さんの事、裕子ちゃんの事、大学の事、バイトの事。おばあちゃんは笑顔で頷いて、私の話しを聞いてくれました。
どれくらいの時間が経ったかわかりません。気が付くとおばあちゃんの姿は、薄くなってきました。
「したっけ、時間だべな」
「やだよ、おばあちゃん。行かないで」
「そったらこと言うんでない」
「したって」
徐々に薄くなるおばあちゃんは、それでも私の頭を撫でてくれます。
「あんたん事は、いっつも見守ってるべさ」
優しい手つきが私の心を、温めてくれます。
「おばあちゃん、ありがとう。いっつもいっつも、ありがとう」
涙でおばあちゃんの姿がぼやけます。
「なんも、なんも」
最後にそれだけ言って、おばあちゃんは消えていきました。私の涙は止まりません。
「おばあちゃん。本当にありがとう」
やがて光が溢れて、元の雲の様な場所に戻ってきます。
「どうやら満足してくれた様だな」
また声が聞こえます。泣いてる私は、その声に応えられません。
「お前の祖母が望んでいるのは、お前の涙か?」
おばあちゃんは、見守ってくれるって言ってました。多分、おばあちゃんが望んでいるのは、泣いている私では無いでしょう。私は、涙を拭いました。そして、笑顔を作ります。
そして何処にいるかわかりませんが、声が聞こえる方向に向かって私は頭を下げました。
「ありがとうございます」
「よい。礼だと思ってくれ」
そこで私は目を覚ましました。
おばあちゃんの温もりが残っていて、王様の声もはっきり残っていて、夢というには余りにもリアルで、私はその余韻に浸っていました。
「おばあちゃん。私は元気だよ。だから、安心してね」
おばあちゃんが心配しない様に、元気で居よう。そう私は心に誓います。そして今度の夏休みには、お墓参りに行って、おばあちゃんに報告するんです。
楽しい報告を、いっぱい。
怖い夢なら忘れちゃっても良いんですけど、とっても良い夢だったなら覚えていたかったりしませんか?
そういう私は、この前に少し変な夢を見ました。どう変かって聞かれると一言では答え辛いです。何と言うか夢というにはリアルな感覚が有って、でも明らかに現実とは違って。
それを何と説明したらいいのか……。だからなのか、目が覚めた後もはっきり覚えているんですよ。
そこは真っ白い何かが広がる場所でした。雲の様にふわふわしてて、でも足元はしっかりしてて。それが何かはわかりませんが、不思議と安心する気がしてました。
気がついた時にはそんな場所にいて、何処からか声が聞こえて来たんです。
「……ずく、……しずく」
「なした? おかあさん? 朝食はパンがいいな」
「お母さんじゃない。寝ぼけているのか?」
「誰? お兄ちゃん?」
「お前に兄弟はおらんだろ!」
「そういえばそうだった」
「それで? 何の用?」
「用と言われても、大した用はないんだが」
「そっか。じゃあね」
「待て待て! わざわざ会いに来たんだ、じゃあねは無いだろ」
寝ぼけているのかって、そりゃあ……ってあれ? 所で、私は何をしているんでしょう。よくわかりません。
「私の声は聞こえていそうだな。それなら話は早い」
「充分に回りくどい感じがするけど」
「私は妖精の王だ」
「ふ~ん。妖精さんにも王様っているんだ。いつもお世話になってます」
「いや、こちらこそ。愛し子達が世話になっている」
「それで、その王様がどうしたんです?」
「いやなに。お主に会いに来ただけだ」
「そうですか。すみません、普通の一般人で」
「愛し子達が見えるのだ。一般人ではなかろう」
「そんな、そんな。私なんて、そこいらにいる普通の大学生ですよ」
「待て、そんな日本人特有の謙遜は要らん」
う~ん、この王様って人は何をしに来たんでしょうか? そもそも声は聞こえてきますが姿は有りません。この空間には私独りだけです。
結局のところ、これってどんな状況なんだろう? 私は姿の見えない『王様』と話しながら、そんな事を考えていました。
そうやって私が暫く黙って考え込んでいると、また声が響いてきます。
「愛し子が世話になっている。お前の願いを一つ叶えてやろう」
更に言っている事がわかりませんよ。願いを一つ? それって魔法のランプ? おとぎ話じゃないですか。いや、妖精さんって存在が既におとぎ話みたいなもんですね。
じゃあいっか……。
って訳に行くか! 冷静になれ私! 姿が見えない誰かに『願いを一つ』なんて怪しすぎますよ。オレオレ詐欺より不自然ですよ。
でもですよ。本当に願いが叶うなら、私はいま何をしたいんでしょうね? 生活は妖精さんのおかげで充実してますし、お金にも困ってませんし、就職はまだ先の話ですし。
「お願いって言われましてもねぇ~」
「何か有るだろう。例えばお前の祖母とか」
あぁ、そうだ。もう、おばあちゃんとは会えないんだ。
いつも色んな話を聞かせてくれて、色んな事を教えてくれて、テストで百点を取った時は自分の事の様に喜んでくれたおばあちゃん。共働きだった両親の代わりに、いつも一緒にいてくれたおばあちゃん。
家の手伝いをした時は、頭を撫でてくれました。妖精さんの話しをしても、馬鹿にしなかったのは、おばあちゃんでした。私が卑屈にならずに済んだのは、おばあちゃんのおかげだと思います。
上京の際に空港のロビーで少し緊張する私を、おばあちゃんは柔らかい笑顔で見送ってくれました。あの笑顔が、上京する私に勇気を与えてくれました。
最後は八十八歳の大往生で、感謝してもし足りなくて。もし、もう一度逢えるなら「ありがとう」って伝えたいです。
でも、それが無理なのはわかってます。私だって馬鹿じゃないです。そんな事を考えても無駄なんです。死んだ人は蘇らないし、私に霊能力なんてないです。いたこみたいな能力もありませんし。
「もう一度、おばあちゃんに逢いたいな」
「わかった。彼の者の失われし時を、いま一度繋げよう」
王様がそう言うと、私は光に包まれました。私は眩しくて目を閉じます。目を開けると先程とは違って、辺りは真っ暗闇でした。私の前には一本の道が真っ直ぐに続いてて、その道だけが光に照らされていました。
私は驚いて、暫くぼぅっとしてました。それからどの位の時間が経ったのかわかりません。やがて、道の先から人影が現れました。それは段々と近付いて来ます。そして徐々に顔がはっきり見えてきます。
忘れる訳がありません。私はその懐かしい笑顔に、少し言葉を失いました。
「元気そうだべな。めんこくなったべや」
「へっ……、おばあちゃん?」
「ばあちゃんさ。忘れたんかい?」
「おばあちゃん、おばあちゃん!」
私は思わず、おばあちゃんに飛びついて泣いてしまいました。
「なぁ~した? そんな泣いて。あんたいっつも泣いとったね~。変わらんね~」
「したって、おばあちゃん」
余りの事に、私は涙を止める事は出来ません。
おばあちゃんは、そんな私をぎゅっと抱きしめてくれました。言いたい事はいっぱいあるのに、胸が詰まって言葉になりません。
ただ、涙だけが止めどなく溢れて来ます。私が落着くまでずっと、おばあちゃんは抱きしめてくれました。
それから私は、おばあちゃんに色んな事を話しました。妖精さんの事、裕子ちゃんの事、大学の事、バイトの事。おばあちゃんは笑顔で頷いて、私の話しを聞いてくれました。
どれくらいの時間が経ったかわかりません。気が付くとおばあちゃんの姿は、薄くなってきました。
「したっけ、時間だべな」
「やだよ、おばあちゃん。行かないで」
「そったらこと言うんでない」
「したって」
徐々に薄くなるおばあちゃんは、それでも私の頭を撫でてくれます。
「あんたん事は、いっつも見守ってるべさ」
優しい手つきが私の心を、温めてくれます。
「おばあちゃん、ありがとう。いっつもいっつも、ありがとう」
涙でおばあちゃんの姿がぼやけます。
「なんも、なんも」
最後にそれだけ言って、おばあちゃんは消えていきました。私の涙は止まりません。
「おばあちゃん。本当にありがとう」
やがて光が溢れて、元の雲の様な場所に戻ってきます。
「どうやら満足してくれた様だな」
また声が聞こえます。泣いてる私は、その声に応えられません。
「お前の祖母が望んでいるのは、お前の涙か?」
おばあちゃんは、見守ってくれるって言ってました。多分、おばあちゃんが望んでいるのは、泣いている私では無いでしょう。私は、涙を拭いました。そして、笑顔を作ります。
そして何処にいるかわかりませんが、声が聞こえる方向に向かって私は頭を下げました。
「ありがとうございます」
「よい。礼だと思ってくれ」
そこで私は目を覚ましました。
おばあちゃんの温もりが残っていて、王様の声もはっきり残っていて、夢というには余りにもリアルで、私はその余韻に浸っていました。
「おばあちゃん。私は元気だよ。だから、安心してね」
おばあちゃんが心配しない様に、元気で居よう。そう私は心に誓います。そして今度の夏休みには、お墓参りに行って、おばあちゃんに報告するんです。
楽しい報告を、いっぱい。