サバイバルって、やった事あります? お魚が威張ってるんじゃ無いですよ。サバゲーとも違いますよ。エアガンをバンバン撃ったりしないんです。FPSでもないですよ、ゲームじゃなくて現実のやつです。

 最近、裕子ちゃんから紹介された女の子と、友達になりました。名前は美夏ちゃんと言います。可愛い子なんです。やや赤めのフレンチショートに、焼けた肌は夏を彷彿とさせます。

 ただ、ちょっと問題なのが、美夏ちゃんはほぼ野生児です。お腹が空いたら、平気でそこら辺の草を食べたりします。体力が有り余っているのか、いつも走り回っている気がします。
 冬でも薄着で、ハーフパンツにスニーカーを履いてます。男の子みたいな美夏ちゃんですが、笑顔はとっても可愛いです。まるで太陽みたいです。
 
 そんな美夏ちゃんは最近まで、農家で住み込みのバイトをしていたらしいです。今まで美夏ちゃんのアルバイトしたのは、体を動かす仕事ばかりです。
 高校を卒業してから、地元の真駒内で酪農のアルバイトを始めて、伝手を辿ってしばらくマグロ漁船に乗った後に、お金を溜めつつ内地に渡って、林業やら、農業やらのアルバイトをしながら、少しずつ南へ移動して来たようです。
 
 何と言ったらいいか、とってもたくましい子です。

「せっかく知り合ったんだから、キャンプでもして遊ぼうよ!」 

 聞きました? 遊びもアウトドアですよ。
 
「ぼく、温泉が近くに有るキャンプ場、知ってるんだよ。ねぇ行こうよ!」

 聞きました? この子ボクっ娘ですよ。しかも温泉ですって。

 うっかり頷いてしまった私が悪いのか、ボクっ娘の美夏ちゃんが悪いのか。大変な目に遭いました。
 おまけに美夏ちゃんてば、脳筋さんでした。どんだけ、属性つければ気が済むんだ、この子は。

「美夏ちゃんさぁ。キャンプの道具は、どうするの? わたしは持って無いよ」
「だいじょぶだよ。キャンプ場で借りれば良いんだもん」
「キャンプ場までは、どうやって行くの?」
「あはは、車で行くよ。ぼく、免許持ってるもん」
「美夏ちゃんって、車も持ってるの?」
「やだな~、持ってないよ。レンタカーに決まってるっしょ」

 そんなこんなで、当日がやって来ました。不安しか有りませんよ。そして残念な事に、不安は的中してしまうのです。

 ナビが付いてるのに、道に迷うなんて考えられます? 散々注意したのに、ガス欠になるとか。地図にも載っていない山の中で、迷子になる事を『遭難』って言うんですよ。
 
 車は動かせないし、スマホの電波が届かないから連絡出来ないし。寒いし、お腹は空いたし。大変な事態なのに、美夏ちゃんは元気はつらつだし。そんな時に、現れるもんなんですよ、救いの神ならぬ、救いの妖精さんが。

 これぞ『ザ、サバイバル』なガッチリ装備の妖精さんは、きりッとした頼もしい感じでした。いや、実際に凄く頼もしかったんですよ。

 飲み物なんて、余分に持って来てないしどうしよう。なんて思っていると、妖精さんが水源を探して、教えてくれます。
 山の中だから、薪は拾いたい放題なんですけど、火のつけ方がわかんない。なんて思っていると、薪の付け方を教えてくれます。

 妖精さんの案内で、少し開けた場所に行って焚火をしながら、その夜は過ごしました。日が昇ってから、更に妖精さんの本領は発揮されました。所々にマーキングをしながら、山道を進んで行きます。お腹は減ってますけど我慢します。

 妖精さんの案内に従って、数時間くらい歩いた所に、微かにスマホの電波が届く場所を発見したので、JAFを呼びました。
 
「どうやって、こんな所に迷い込んだの?」

 JAFの人に言われましたが、むしろ私が知りたいです、そんな事。ただね、ちょっと嫌な予感がしてるんですよ。
 妖精さんが、やたらと美夏ちゃんに懐いているんです。それでもって、美夏ちゃんは妖精さんを目で追っているみたいなんです。
 
「ねぇ。さっきから、ぼくの周りを飛んでるのって、新種の生物?」

 うわ~。やっぱり見えてるよ、この子ってば。

「でも、この生物のおかげで、ぼく達は遭難しなくて済んだんだよね」

 美夏ちゃんは、妖精さんをおっかなびっくり撫でてます。

「あのね、信じないと思うけど、その子は妖精さんだよ」
「嘘だぁ! 妖精なんて、居る訳ないしょ!」
「現に見えてるじゃない! それが妖精さんなんだってば!」
「またまたぁ! 面白い事を言うんだね」

 まぁ、信じませんよね。でもね。帰れば信じさせる方法は有りますよ。だって、他の人が見えてなければ、信じるしか無いんですもん。

 帰りはJAFの車にくっついて、迷うこと無く帰宅出来ました。面倒ですけど、妖精さんを信じない美夏ちゃんに、裕子ちゃんを引き合わせました。結局、なんやかんやで美夏ちゃんは、妖精さんを信じてくれました。

 そうじゃ無いと、せっかく助けてくれた妖精さんが可愛そうです。泣いちゃいますよ、きっと。
 
 その後、妖精さんはどうしたって? わんぱくな美夏ちゃんに、張り付いてます。すごく楽しそうです。
 
 遅ればせながら、この妖精さんに名前を付けました。サバイバルの妖精さんです。
 
 美夏ちゃん曰く、「どんな山の中に入っても、この子が居るから帰って来られる」そうです。もしかしたら、実験でもしたんでしょうか? 流石、脳筋さんですね、美夏ちゃんって。