節分です。豆まきしたり、歳の数だけ豆を食べたり、一年の無病息災を願うイベントです。最近では恵方巻きも流行り始めましたね。
 
「豆まきにはあまり興味が無いのですが、せっかくなので恵方巻きを作って貰おう!」
 って事で、たまには私も本気出します。レッツ海鮮巻き! そしてやって来ました築地場外市場です! そして何故か一緒に居る、裕子ちゃんです。
 
 裕子ちゃんって私の事好きなの? いや違うな。目当ては海鮮巻きだな! この食欲魔人め!
 なんたって今回目利きをするのは、その道のプロ、お料理の妖精さんですよ! 裕子ちゃんが食いつかないはず無いですよ。

「私も行くわよ」
「何でさ」
「良いから行くの」
「はぁ、もう。仕方ないね」

 そうなんです。仕方なく連れて来ました。今日の裕子ちゃんは、荷物持ちを兼ねてます。

 流石は築地です、観光名所です。沢山の人で溢れかえってます。と~ても賑やかです。朝早くやって来たかいが有るってもんです。

「マグロ! 大トロが食べたい!」
「裕子ちゃん、馬鹿なの?」
「何がよ! 築地でしょ?」
「築地だね」
「ならマグロじゃない!」
 
 いや、意味が分かりませんが。それに、そんな高い物を買える訳が無いでしょ!
 ちなみに、何時も裕子ちゃんが食材を用意してくれるので、今日は私の奢りです。お料理の妖精さんには、私の予算を伝えて有ります。す~ごく、す~ごく頑張りました!
 アルバイトとへそくりで溜めたお小遣いから一万円。これが今日の予算です。倹約家の私ですが、たまには贅沢するんです。

 私もマグロが食べたい。確かにそう思いますよ。お料理の妖精さんは、単に食材を見繕うのでは有りません。素材の良し悪しや、作る料理をちゃんと想定して、食材を選んでいきます。

 そして買ったのはマグロの中トロ、車海老、穴子、かんぴょう、飛び子、出汁用の昆布に鰹節と煮干し、そして海苔です。歩き回りましたし、そこそこ荷物になりました。
 せっかくなので、場外市場で昼食を取った後、電車に乗って自宅へ戻ります。

 定番のだし巻き卵は、出汁から手作りです。当然、すし酢から煮切り醤油まで、お料理の妖精さんが作ります。

「君達って、本当に色々と作れるよね。凄いね」

 そう言うと、お料理の妖精さんは腕を組んで鼻をフンってさせてました。うん、頼もしいです。なんか、職人さんって感じです。
 ペチ達用にも何か作って貰う様に、頼んでおきます。だって、可哀そうじゃないですか。

 お料理の妖精さんが手際よく料理をしている中、私は妖精さん達を集合させます。

「あなた達、節分って知ってる?」

 妖精さん達は、一斉に頷きます。まあ、知らない筈が無いんですよ。物知りなお勉強の妖精さんが居ますし。
 
「鬼役と豆を投げる役を決めて、みんなで豆を投げっこしよう!」

 妖精さん達は一斉に話し合いを始めました。輪になってゴニョゴニョと暫く話し合っていました。

 結局、四大元素の妖精さんが鬼に決まった様です。
 豆を投げる役は、お勉強、お仕事、音楽、お花、予防医療の妖精さん、飼育の妖精さんもペチ達の世話を忘れてやる気みたいです。
 氷の妖精さんは、冷凍庫から出れないので不参加です。お掃除の妖精さんは、後片付けを楽しみにしている様です。
 
「あんたって、いつもこんな馬鹿な事してるの?」

 妖精さんが見えない裕子ちゃんには、わかるまい。この妖精さん達のウキウキした笑顔、これだけで元気になれるのだよ!
 ついでに買って来た豆を持って、妖精さん達は今か今かと待ち焦がれています。

 本当は豆をまくのは夜なんでしょうけど、あんまり待たせちゃ悪いので豆まき開始! 飛び交う豆、飛び回る妖精さん達。一緒にはしゃぐ、ミィ、ペチ、モグ。狭いワンルームは、一気にお祭り騒ぎになります。

 妖精さんが見えてない裕子ちゃんには、ポルターガイストに見えるのでしょうが、流石になれた様で気にも留めてません。むしろお料理の様子を凝視してました。

 火、水、風、土の妖精さんがワンルームを所狭しと飛び回ります。お勉強の妖精さんと、お仕事、お花、予防医療の妖精さんが、ひらひらと舞い豆を投げます。
 飼育の妖精さんは、ペチ達の事を気にかけつつも、楽しそうに豆を投げてます。音楽の妖精さん達は、豆を投げずに音楽を奏で始めます。
 氷の妖精さんは、冷凍庫の隙間からみんなの様子を見て、クルクルと踊ってます。床に落ちた豆をペチ達が食べない様に、お掃除の妖精さんが即回収です。
 飛び交う妖精さん達を追いかけ、ペチ達がジャンプします。
 なんでしょこのファンシーな空間! 可愛さ満点です! おぅ、鼻血でそう……。

 ひとしきり豆まきを堪能し、ペチ達が疲れ切った所で豆まきは終了です。妖精さん達は、大満足の笑みを浮かべています。良かった、良かった。

 豆まきが終わる頃、丁度海鮮巻きが出来上がります。
 うゎあ! なんて豪華な海鮮巻き!
 なんたって食材に超お金をかけた上に、お料理の妖精さんが本気を出した海鮮巻きですよ。見た目だけで、意識が持ってかれそう!

 裕子ちゃんは待ちきれずに、目をぎらつかせてます。私も待ちきれません。いざ実食です!

「「うぉいうぉい、うぉいし~い!」」
 
 頑張って築地まで行ったかいが有った!

 穴子はふっくらと炊かれ、口の中でほぐれます。流石の目利き、中トロは脂の乗りが最高です。プリプリの車海老は舌を喜ばせ、飛び子のプチプチした食感は、良いアクセントとなってます。だし巻き玉子やかんぴょうは主張し過ぎず、各素材の味を引き立てます。
 
 因みに裕子ちゃんは、頬張りながらポロポロと涙を零していました。ペチ達も夢中で、特製猫ごはんを頬張ってます。
 
「幸せだ~!」 
「うぉ~!」

 二人で思わず叫んでしまいました。近所の方々すみません。美味しすぎる海鮮巻きが悪いのです。

「そう言えば、恵方を向いて無く無い?」
「あ~! でも食べちゃったね。先に言おうよ裕子ちゃん!」
「仕方ないでしょ! これを食べる為に今日一日あんたに付き合ったんだから」

 そんなこんなで夜が更けていきました。最高の節分、この調子で福がやって来ると良いな。あれ? もう福がやって来てるのでは? ハハハ……。