わたしの前を、朋子と悠人くんの姉弟が歩いている。
 悠人くんは自転車を押しながら、隣の朋子とさっきのケンカを蒸し返して(どちらがきっかけなのかは分からない)、まだ言い合っている。
 歌の歌詞みたいに、自分のことを引き合いに出して、二人を止めたほうがいいのかなとも思ったけど、もうしばらくは後ろから可愛い二人の姿を黙って見ておくことに決めた。

 二人とも、仲良しだなぁ。
 一人っ子のわたしは、ケンカのできるきょうだいがいる二人をうらやましく感じる。
 特に朋子と悠人くんは、1歳違いのいわゆる年子で、年齢が近すぎてよけいにケンカをしてしまうのかなと思っている。

 きょうだいって、いいな。
 わたしも本当は欲しかった。
 昔、母親にねだってみたこともあったけど、こればっかりは「うん」と言ってもらえたことがなくて、小さなころにいちばん欲しかったものが手に入らなくて、悲しかった。
 それでも諦めきれなくて、歳の近い、わたしの味方であり同士でもありライバルでもある存在が、この世のどこかにいるかもしれないと思って、探したこともあった。
 どこか、どこかにいますか?
 わたしの弟か、妹よ。
 いたら返事をくださいと。
 毎日、お星さまにも祈っていた。

 大人に近づくにつれて知る、生命のしくみ。
 自分が親と同じような行為をすることですべてを理解した。
 今の彼氏はとても優しいから、怖くはなかった。
 でも、そんなに簡単なことじゃないって、すぐに分かったのは。
 産むことがゴールではないことを思い知らされたから。

 結局、二人はうちの喫茶店に着くまで言い合いを続けていたらしい。
 二人の話した内容は、わたしのことに端を発してはいたけれど、どうもその後脱線してどんどん別の話題に移っていったようだったから、聞き返すことはやめておく。

「明日香、おかえり」
 父が出迎えてくれる。
「おじさん、こんにちは!」
「こんにちは」
 二人がそれぞれに父に挨拶する。
 父は、朋子に対しては微笑んでいたが、悠人くんに視線を移した途端、眼光が鋭くなって、彼の肩がびくりと跳ねたのをわたしは見逃さなかった。
「パパ、やめて」
 ため息をつきながらわたしは言った。
 そのことは、わたしが悪かったって繰り返し言っているでしょう?
 父に対してそう視線で訴える。
 気まずくなったらしい父は、バックヤードに音もなく引っ込んだ。
 朋子理論で行くと、逃げたら負けを認めたことになるのよ、パパ。
 わたしはもう一度、バックヤードにも聞こえるように、ため息をついてやった。